スノーボード業界のステッカー屋さん/上田敏雄

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今回のグローバルインタビューでは、ひじょうに特殊な職種の方にご登場願います。
それは、スノーボード・ブランドなどアクションブランドマーケットで、ステッカーを作る業者、『斬字屋』オーナーの上田敏雄さん。

斬字屋では、個人事業ゆえにこだわりを持ってステッカーを制作し、その技術や商品は、日本に留まらず世界にも注目されています。
多くのスノーボード・ブランドとのお付き合いが多い業種だけに、業界のことに関してもくわしい。

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今回は、ショップの店員だった上田さんが、おもいきって創業に至った経緯や、業界再生のためのヒントとなるアドバイスを伺いました。

インタビューアー: 飯田 房貴(いいだ・ふさき)

 

今日は、斬字屋さんの上田さんです。
以前、僕たちはミナミでいっしょに働いていて、「うえだ」って、呼んでいたけど、今回は親しみを込めてブーチャンで呼ばせていただきますので、よろしく願 いします。

よろしくお願いします。前の職場の先輩は、「ブーチャン」か「うえちゃん」でしたので、フサキさんの呼びやすい方で!

早速ですが、ブーチャン。僕達の出会いはミナミ時代に遡ります。15年とか、それ以上前の話しですね。僕が以前、ライダーをやっていて、ブー チャンは店員さんでした。
当時から、しっかりと仕事をやっているという印象を受けていたのですが、そもそもミナミからステッカー屋さんに転身したきっかけって何だった のですか?

いろいろなことが重なり合っていたのですが、ミナミの先代会長の教えの「お客様第一主義」を貫きたかったのが理由です。また、ライダー向けに 少ない量でも安くステッカーを製作制作できれば喜ばれるかも、というのがきっかけですね。たぶん、自分が携わったことで、相手が喜んだり驚いてくれることを大切にしたかったからだと思いま す。

なるほど。だけど、ステッカーという業種。かなりニッチな印象も受けますが、なぜステッカー屋さんだったですか?

販売員の当時は、ステッカーはメーカーからの販促程度で今よりもクオリティが低かったのですが、それでも購入するお客様も多くいましたので ニーズはあるのではないかと思っていました。
お客様のお財布事情として頻繁にギアの買換えができなくなり始めていたので、ステッカーでイメージを変える方法をオススメすると、お客様が受 け入れてくれていたので可能性があるのではと思えたのです。
それで、機械を買っちゃいました。今からすると勢いだけで機械を購入してテストを初めましたが、恐ろしいです。

ヤバ!(笑)
そんなノリで始めちゃったんだ。だけど、今ではこれで飯喰っているんだから、大したもの。先見の目がありましたね。
そもそも、ミナミの社員だったわけで、そこから個人事業主になることに怖さとかなかったのですか?

先見の目なんて全然ないですよ。ミナミに在職中に開業するまでの約4年間、独学で素材の勉 強や失敗も重ねてきましたので、制作面での不安は少なかったのです。しかし、金銭的な不安は、ひじょうにありました。今よりも景気が良かったのと、家族が理解してくれたのと何度もテストしてくれたライダーさんたち の協力があったから一歩を踏 み出せたと思います。今の景気だったら、やってませんね。


(親しい業界関係者も多く、顔が広いブーチャン。この写真は、インタースタイル展示会場で出展した時のもの

それで、今ではスノーボード・ステッカーの最先端と言ってもいいテクノロジー商品を作っていますね。先日、見せてもらったワニの甲羅のような ものや、これまでにも蛍光のものなど。ああいうおもしろいステッカーって、海外でウケがいいですね。いつだったか、Nomis本社と話し合いリリースしよう、という段階にもなりました。あの時はコスト面でダメだったと記憶していますが、そもそもステッカーって、今、日本が。というかブーチャンのところが、最先端行ってますね。

素材は、自分自身が「カッコいいかも」「目立つか も」と思えるものを実際にカットして自分が納得した素材を提案するようにしてます。毎回、素材メーカーがス テッカーで使用していることに驚いてま
す。粘着力や耐光年数、コスト面で差はありますが、ステッカーとして使用するのに問題はないわけです。最先端というよりは、いろんな分野で使 用されている素材から選んでいるだけ。素材の分野、制作でガチガチな固定概念を持たないで「もしかしたら」という発想で選んでいるのでそのよ うに思えるのかもしれませんね。

なるほど。柔軟な発想力が、新ステッカー素材を生み出しているのですね。じゃあ、街歩いても油断できませんね。「あの素材、ステッカーで使え るかも!?」なんて。

正解です。そのため外出する時にカメラを持ち歩いてましたよ。スポーツ専門・アパレル専門と視野を狭めてしまうと、ヒントを逃してしまうの で、店舗の外装や内装、洋服の生地、風景からガラクタまで気に止まったら写真を撮るようにして、素材屋に相談したり自分でプリントして制作も してました。今でもたまに携帯で撮ってますが、周りの視線が痛くて(笑)


実際にいくつかそのユニークなステッカー を紹介してもらえませんか?

今テスト中で、今シーズン提案予定の素材が、クロコダイル柄(写真では、ブラックに見える。)の素材です。表面に凹凸が入っているので大きめデ ザインに良いかと思ってます。ちょっと渋めのステッカーとしてかっこいいかも しれません。

キラキラ系では、ここ数年人気なのがプリズム素材(写真ピンク)です。耐光年数が短期で硬い素材ですが、細かなプリズムによっ て雪上でもきれいに映えます。

ちょっと意外な素材なのが、木目調の素材です。こちらも耐光年数が短期で硬めな素材ですが、特に海外からの旅行者が気に入って購入していただいているようです。


(※実際に 戸隠の山口屋さんで販売中)

そういえば、昔Nomis本社の皆さんにステッカーを購入するのは、アジア圏だけと言われていましたが、そういっ た面ですは、ステッカーの価値も一歩前進できたように思います。

そう、海外でのステッカーって、ほぼ完全販促用で、あまり日本のように熱心に販売していないんですよね。だけど、シモン(チェンバレン)もそ うだけど、 ブーチャンのところで作ったステッカーを「凄い」とか言いながら喜んでいるから。海外でもやる気になれば、十分な販売商品になると思います。

うちのクオリティーがどのくらい認めてもらえるか知りたいので、海外に向けて販売よりも海外のライダー向けに制作はしてみたいですね。英会話 が苦手なのとこう見えて人見知りなので(笑)。それに職人的な部分があるので、より良いものを作るのにクライアントに意見や訂正をさせてしま うので正直、海外ではうちは難しいと思いますし、国内でもまだまだだと思ってます。

ところで、ブーチャン。職業柄、付き合い多いでしょ?言い方を変えれば、これほど垣根がない職業もないよね。だって、全ブランドと付き合うこ とができるんだから。だから、ぶっちゃげ、どこの代理店が元気だとか、そういうのわかっちゃうのでは?

たぶん、販売員と卸業・エンドユーザーという3つの視点から見ることができるからだ思います。実際に店舗に行くと、商品に独自の説明工夫 があるか、相談できる定員の雰囲気があるか、小物や販促をどのように見せいているかなどを、自らの仕事に活用するために見てしまうので、生意気に思われてしまうかもしれませんが、なんとなくで すけど感じることができます。
じゃあ、今のスノーボード市場は、どうだろう?
今季は雪が多くて景気が良かったという声もあったけど。

雪が多くて今までよりは、良かったかもしれませんが、お気に入りの店舗で購入する人の割合は下がっていると思います。安値の店舗か WEB等の通販で購入しているユーザーが増えているからです。お店離れは変わっていないと思います。特に学生や20代の層には、運んだ りするのが面倒なのでレンタルというユーザーも多くいます。
個人的な感覚ですが、ユーザーが自分のボード等を持たない理由は、経済的な理由だけではないと思います。個人でボードを持つ楽しみや魅力を提 案できていない。そのことが購買意欲が刺激されないために、固定の店舗でなくWEB等の市場や一見のユーザーが増えてしまっているように感じ ます。

WEB等での販売が増えるのは、時代の流れとしてどうしょうもないだろうけど、「楽しみや魅力を提案できていない。」って、具体的には?

「個人で持つ楽しみや魅力」 というのは、販売員の説明でユーザーに「自ら考えさせる」、「イメージしてもらう」ためのアドバイスだと思っています。

ヘビーユーザー相手であれば、細かなライディング性能やマニアックな話であったり。エントリーユーザーには、予算に合わせだけではなく、長く 使用するためのギ ア組み合わせやレベルアップのための基礎的な説明などで自らイメージ幅が広がることになります。

販売員はユーザーのアドバイザーであり、 ユーザーが自ら考えて、イメージできる状態を提案していくことが、「店舗に来る魅力」や「購入する魅力」だと個人的には思っています。「販売員のアドバイ ス」+「アドバイスへの検討」+「イメージ(妄想)」+「自らの判断でのチョイス」=滑る楽しみ」が魅力につながると考えています。

なるほど。確かにここまで提案したりアドバイスできれば、ユーザーだってその気になりますよね。
今、商品を決めるために店に通い、購入するのはネットで探して一番安くなんて方もいるけど、ここまでちゃんとアドバイスしてもらえらば、購入 する方だって、「またこの店員さんにアドバイス受けたい!」って気持ちで買ってくれるだろうしね。

自分自身の置き換えると普段購入するお店って、商品の品揃えや値段だけではな く、接客してくれた販売員の対応で購入を決めていると思うので、一番重要だと思います。

本当、そうだね。同感!メーカーサイドの方はどうだろう?何かも う1つ、売っている方も自信を持ってオススメできないというか、迷っているというか。元気がないように思うのだけど。ブーチャンは、そのへん どう思いますか?

ポジティブなメーカーは、少ないように思えます。経費削減で人員も販促費も削られていて厳しい状況で活力が上がっていかな いのかとは思いますが、マーケットが狭まっている中でイベントや販促に変化がなく、ターゲットが定まっていないようにも思えるので、よけいに 元気がないようにも見えます。

目線が、保守的というか、これまでの流れから飛び出さないよね。自分の場合、原稿の書き方は、週間プロレスと か参考にしちゃってます(笑)。あと、幕末時代の歴史とか、ビジネス本なんかもよく読んで、自分のスノーボードの仕事に活かしています。だから、元気ないところも、もっと他業種の良いところを取り入れてやってみたら、と思うけど、ブーチャンは何か良いアイデアとかあります か?

ウチの場合には、個人事業ですので一人でできる範囲は決まっていますので、同じ業種内で協力したり、異業種の制作企業とも認め合いながら販路を広げるようにしています。

スポーツ業界も一緒だと思います。ブランドは違えど、販売する商品・販売する先は一緒であり、協力企業が集まればイベントなどで使う経費も お互いに抑えられます。中には、反感を持つ企業の上層の方もいると思いますが。商品を購入するのはお客様であり、メーカー社員が自社ブラン ドを好きで、良さを伝えることが出来ればお客様が必然的に手に取ってくれます。そして、自分がお客であれば、どんな販促であれば嬉しいかによって、取り扱っている異業種企業と協力することも考えることができると思います。自ら思考することをやめてしまえば、魅力も止まって しまいます。

そして販促に関連して言えるのが、ステッカーです。今は、昔のように無造作に巻いても意味がありませんが、ライダーが使う分は必要です。ブランドのコアユーザーであれば、購入し、身の回りの物に貼ってくれるわけですから、メーカーは、お金を払ってもらいながら も、無料で宣伝広告を増やしていることになると思っています。「たかがステッカー」がお客さんにとっては、高額商品と同じ価値があるブラ ンド商品であり、好なブランドだからこそ購入するアイテムです。コアユーザーを大切にすることがブランド力のアップにつながると思ってい ます。そのためには、「量より質」への変革とイベントなどをメーカー同士が協力してその中でも独自の思考をしていくことが メーカーが元気になることに繋がると思います。


今日はいろいろためになるアドバイス、ありがとう!

こちらこそありがとうございました。まだまだ半人前の個人事業主が小生意気なことを言っているようで、恥ずかしいです。前の会社の先輩方からいじめられそうですが(汗)。
「急激に売れるということ≒急激に落ちるということ」でもあります。
どんなことにも完成は無いので自らのレベルに満足せずに、今後とも「物言う製造者」 として「たかがステッカー」を「価値あるステッカー」に意識改革ができるように、ゆっくりですが、根がはるように頑張っていきたいと思います!


斬字屋からお知らせ

切り文字ステッカーやプリントシール等で悩んでいる方は、お気軽にご相談ください。ホームページから色見本等も見れますので良かったら覗 いてみてください。
http://www.kirijiya.net

 

 

 

 

 

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