【コラム】GET TO THE MOUNTAIN ! without snowboard

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文:柿坪 明子

「雪が降るまで、ただじーっと待っているなんてもったいない。フィールドに行けば、僕達がまだ見ぬ何かが必ず見つかるはず。夏もアクティブに楽しもう!」
そんな思いと、冬の間は容易に入れない雪山の夏の姿を見に行こう!というきっかけで、この夏の終わりに私たちは日本有数の豪雪地帯であり山スキーで名の高い八甲田へと足を運んだ。
今回の“みちのくTREKKING TRIP”の メンバーは、スノーボードに魅了されること7~8年。近年、人の手で管理されていない区域=バックカントリーでの滑走にフォーカスしている私と友人の2名。
一般に呼ばれる八甲田山というのは、十和田国立公園の北部に横たわる連峰の総称で、標高1584mの主峰八甲田大岳を中心に10余を数える山々から構成される巨大なエリアである。
私たちの八甲田での1日目は、ロープウェーを使い山頂駅から田茂萢湿原を通り赤倉岳?井戸岳?大岳を経て仙人岱を通り抜けて酸ヶ湯温泉へ降りて山荘泊という日帰りルートを選んだ。ここ北八甲田連峰の厳冬期はロープウェーを降りたとたんに巨大な冷蔵庫、もしくは宇宙にでも降り立ったような光景であたりにはモンスターのような樹氷が連なり、吹雪などでルートを見失えばコース内でさえ危険なエリアなのだが、この冬の豪雪が夏から秋にかけてはあちこちに「岱」とか「萢」と呼ばれる湿地帯を作り上げ、また夏は高山植物の宝庫となる。冬からは想像もつかないようなこんな開けた景色の中を順調に進みながらあっと言う間に稜線に出た。冬のラッセルが嘘のように足取りが軽い。雪の匂いとはまた違う、緑のいい匂いがする。自然の中で何も考えずにただ、ひたすら山を歩いていると眠りかけていた自分の持っているいろんな感覚が目を覚まし五感がフルに働いているのに気がついた。たくさんの情報と便利なものに溢れた、忙しい都会の生活の中ではこういう心地良い感覚に浸れる時間はそうあるものじゃない。「豊かってなんだろう。」と思わせる瞬間だった。
稜線に出てからの二人の会話といえば、目の前の緑のスロープがあたかも真っ白なパウダーに包まれているかのようなものばかりだった。「あそこまで直滑って、当て込んだら・・・」とか「ここは3ターン位で突っ込むでしょ。」といったふうに。その他、植物が生えていない剥げた急斜面を見ながら、「あそこは雪崩の後かな。」とか「ここは雪崩の巣らしいよ。」など、冬には見ることのできない雪の下の地形を見ながら想像を膨らませていた。大岳山頂で残っていた水で湯を沸かし、軽くランチをとり酸ヶ湯を目指して下りはじめた。途中、仙人岱を通るとそこには自然に湧き出た水場がありその豊かな自然に感謝しつつ、この先の行動水を分けてもらった。喉も心も潤った後は硫黄の匂いに吸い込まれるように一気に下って最高の一日が終わった。
2日目、南八甲田の蔦沼周辺をのんびり歩いて周り、物珍しげに出てくる小動物に挨拶を交わした後、少し離れた赤沼までブナの原生林をかき分けながら進んで行った。
北八甲田は比較的登山道が整備され一般登山者も見られ、夏の間は道に迷うことはなさそうだったが、南八甲田はあまり整備されていないので人も少なく道はあるがわかりにくい。途中、何度か地図とコンパスで方向を確認しながら進んでいった。こういったコンパスや読図の知識や経験も少しずつ身につけていかなければ、雪崩に会う前に遭難してしまう。国道沿いの赤沼入口から原生林を一時間も歩かないうちに赤沼に到着。そこでテントを張り、時折ホタルの放つ光に目を奪われながら二人共、思い思いの時間を過ごした。
今まで、板を持たずに山に行くことなんてなかったし、滑れない山なんておもしろくないと思っていたけど、夏山には冬には出会えないたくさんのものがあった。それに、少しでも夏の間に荷物を背負って歩いていたほうがオフトレにもなるハズである。もっとも、こんなに楽しいトレーニングならもってこいであるが。また、自然の中に入って行くくにはもちろんそれ相当の装備、知識や経験が必要であり、様々なリスクから自分の身を守らなければならないことも忘れてはいけない。まだまだ知らないことだらけの山を知るために、また新しい楽しみをみつけるためにこれからもいろんな山に行きたいと思う。

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