文:齋藤 稔
すでに多くのスノーボーダーで話題になっているX-TRAIL JAMの日本人投票結果。驚くべきはストレートジャンプ4位の大塚知伸、またの名を「とんちん」の出場に間違いないだろう。まだ知らない人のために説明するとこのとんちんはファーストチルドレンのビデオで一躍有名になったライダーでちょっと前は「暴れ太鼓ナイン」、今期は「超電磁スピン」を必殺技とするアマチュアライダーである。この場合のアマチュアの規定はJSBAのプロ資格がないことであり、日本で行われる大きな大会にプロ資格のないライダーが出場権を得たというのは初めてのことなのだ。これまで大きな大会というとJSBAのプロ資格を持つライダーが参加するというのが暗黙の了解のような部分があり、アマチュアはまずプロ資格を目標とするとのが一般的だった。しかし近年JSBAのプロ資格にとらわれないで活動し、大きな意味でプロライダーと呼べるライダーも徐々にだが増えてきているのも事実だ。その筆頭がとんちんである。
彼は昨シーズンより眞空雪板等から裏眞空というシグネーチャーを出しており、もちろん今期も発売されたこのモデルは各地で驚異的な売り上げを記録するというこれまでの常識を全て覆すスノーボード界の異端児なのである。ビデオで見る彼の滑りは年々進化を続けているのだがメイク率を求めると言うよりは常に新しいことにチャレンジする姿勢を貫いており前の年よりも回転数と高さが上がるのだが、その分メイク率は相変わらず低い。たぶん普通のライダーと同じようにメイク率をきちんと計算してライディングすればかなりの実力をもつライダーになるのだと思うのだが、毎年ビデオを見るとついついメイク率よりも「今年は何にチャレンジしているのか?」を期待してしまいメイク率よりもその「常に新しいことをやり続ける」という姿勢に共感を覚えてしまう。
ちなみに彼に関する噂はすさまじい物があり「痛みを感じない身体なのだ」「年間の滑走日数は一桁ちょっとくらい」「毎年初滑りはビデオの撮影」「ついに先日某山奥で1260をメイクした」などある意味その実態は知られていない部分が多い。またとんちんの才能は各分野で発揮されているようでトランスワールド誌で連載されスノーボーダーのバイブル的な人気を獲得した「Fがいく」というマンガなどは有名なところだろう。この他にもビデオの中で車に轢かれるスタントを演じたりと通常考えられるスノーボーダーとは全く違う人種にも思えてしまう。
そんな彼が今年のX-TRAIL JAMの日本人予選出場権を得たというのはひじょうに意味のある結果だと思う。欧米ではプロの資格などは曖昧であり、プロをアマを分ける区分は「メーカーがそのライダーに金を払っているか?」つまりスノーボードで収入を得られているのかと言う部分で判断されることがほとんど。日本ではプロ資格がなければ大舞台に立つこともかなわないし、ビデオの出演も厳しいのが実情だろう。しかし海外ではその実力を認めさせることができれば階段を上っていける。良い例ではニクソンジブフェスタで優勝したシモン・チェンバレン。まだ若いしこれと言った実績もなかったシモンは自ら大会の主催者の一人であるJP・ウォーカーにビデオを送り出場権を得ることに成功し、さらには優勝までも手に入れて一気にスターライダーへの道が開けた。これが日本ではどうだろう?まずJSBAのプロ資格がなければ予選に参加する権利すら手に入れることは難しいだろう。つまりスタートの段階で日本では必ずパイプかBX(もちろんアルペンも)でプロ資格を獲得しなければ競争に参加することすらできないのである。ビッグエアーで観客を沸かすのが目標のライダーでも必ずパイプで一定以上の成績を残すことを求められてしまうのだ。この段階で海外との環境の差は歴然としているのがわかってもらえるだろう。
さて、ここまでくればとんちんの出場権獲得という実績がどれだけ大きな意味を持つのかわかって頂けたことだろう。プロ資格を持たないライダーがビデオでの実績だけをもとにファン投票の結果により国際大会に出場することができる。これは今までのスノーボードを取り巻く環境が時代とずれてきていると言うことが言えるのではないだろうか。よく日本は環境が整っていないというライダーが多かったがその環境を変えたのはやはりスノーボーダーサイドからだった。ファーストチルドレンというチームのビデオが日本で認知され、それに伴いそのビデオから新しいスターが生まれた。またその新しい動きを一般のスノーボーダーも喜んで受け入れている。これまでの協会やメーカー主体の流れからスノーボーダー主体の流れへと少しずつではあるが変わってきている。今まさに節目を迎えていると言うことができるだろう。X-TRAIL JAM当日はとんちんが観客を沸かせることのできる「魅せるプロ」としての実力を発揮して大会を盛り上げてくれることを信じて疑わない。そしてもう一つその日は新時代の幕開けを告げる日になることも同じように確信している。
頼んだぞ!とんちん!!