文:飯田房貴
今年の浪人3の製作では、あたり前のことに気づかされたという思いが強い。自分はこの業界の中で、特にハウツーという世界では頼りにされているという自負があった。だから、自分がリリースするものにある程度の自信があったのも事実だ。しかし、自信を持って作った浪人2が思ったほど売れなかった。正直言って赤字である。経営者であるからには、きちんと計算すべきだが、赤字の額を確認したら、何か浪人3へのパワーも失いそうで・・・、というか失敗は失敗なのだから、反省してその分、未来に力を注いだ方が得策だ。自分の中では、だいたいこれぐらい損しただろう、と確認しつつ浪人3の撮影を続けるシーズンだった。しかし、4月になっても、これと言ったアイデアが出なかった。
正直わからなかった。何を作ればいいのかわからなかった。漠然と今までやっていない「パウダー」「レール&ボックス」「キッカーの作り方」のハウツー3本軸で行こう、と考えた。事実そのようなイメージで撮影も行って来た。しかし、本当にそれでいいのか? 完全なるGOサインが出せなかった。そんな思いのままある日、僕はウィスラーのdmkクラブ員による飲み会(おわかれ会)に参加した。そこで、自分の思いを話したら、クラブ員たちがアイデアを出し合った。その中でジブというテーマが出て、おもしろそうな感じになった。現在のジブ・ビデオを把握すべく同じ日の夜、酔っ払いながら様々なジブ・ビデオやハウツーの類を見ていた。「なるほど」とも思ったし「こんなもんか」と思った部分もあった。ともかく、僕はここでひじょうにビデオ製作で初歩的な手段、「他のビデオをリサーチする」ということを行った。
後日、改めてdmkクラブ員中心に喫茶店で集合した。この日はさらに気になるビデオをチェック。そこで改めて他のビデオの良い点を研究した。実を言うと、このミーティングの前に、スノーボード・ビデオに精通しているあるクラブ員トオルがハウツーのプログレッション(上達方法)を提案した。今まで、このようなプログレッションを考えるのはハジメ(クラブ員)で、僕のハウツー作りでもたびたびヘルプしてもらっていたのだが、擦りものハウツーという部分ではトオルに一日の長があったのだ。それで、このトオルが作ったプログレッション原案を元に僕たちは議論した。そこで意外に参考意見になったのは一般スノーボーダーの感性を持ったカオルちゃん(クラブ員)の意見。彼女は僕たちがとかくスノーボーダー頭で難しいこと(彼女にとって)を言うと、ビシバシ指摘するし、また何がわかりやすくて何がわかりにくいかなど正直に言ってくれる。だから、僕にとっては目からウロコで、ひじょうに参考になった。またこの日集まったクラブ員中心で集まったメンバーたちにもすべて意見を聞き、それもひじょうに参考になった。ここで、僕はまたまた初歩的なことだと言える「一般スノーボーダーの声を聞いた」ということを行った。
またこの日のミーティングではウチのミノル(副編集長)のビデオに関するレポートも届いた。そこにはかなり手厳しい意見が多かったが、その中でも参考になったのは、1つのカテゴリーを深く、ということ。つまり、今までのように3つのテーマを伝えるのではなく、1つのことを凝縮して伝えよ!と。そう、それで完全に僕たちは、ジブに決めることができたのだ。なぜなら、ジブはゲレンデにあるどんなものでもできるのだから。それこそ雪上のグラトリもジブだし、レールやボックス、さらにはログや雪の塊、イスやテーブルなど、なんだってジビングが可能なのである。きちんと練習すれば、子供から飛びが苦手な年配の方まで楽しめることができる。こんなに楽しくて、しかも今、注目されているカテゴリーはない。そう僕は、さらに基本なこと「多くのスノーボーダーのニーズに応える」ということを行った。
このミーティングで決まった方向性を発表しよう。
1)誰もが安心してフロントサイド・ボードスライドまでできるわかりやすいプログレッション(上達方法)提供
2)ハウツーのモデルは完全にこの企画を理解してデモができる人が行う
3)ハウツー情報量を増やすためナレーション主体にすること
4)3パート構成(50-50、B/S BoardSlide、F/S Boardslide)
5)各章の最後に模範デモとしてトップ・プロに登場してもらう
6)エンディングに気持ちいい浪人ライダーのシーンを並べる
7)失敗シーンでよりハウツーを理解できるようにこれからボードスライドをやるモデルを投入する
その他、いろいろ細かいことも決まったが、大まかに言うと以上の点が決まったのである。 そして、この日以来、僕たちはガンガンに撮影をした。気に食わなければ、再撮影もいとわなかった。ある日には、侍の袴で足の動きがわかりにくいという理由で、再撮影もした。そう、まるきり同じ撮影を袴なしで行った日もあった。そして浪人ライダーとのセッションでも必ずレールやボックスにチャレンジしてもらった。普段、カンジくん、ミッチャンはレールなどあまりやらないのだが、浪人3のために積極的にやってくれた。そして、夏には絶対にレールはやらない、という高正までやってくれたのだった。ともかく、僕たちはジブというテーマで世界中のライダーを巻き込んだのだ。ニュージーランドでは、子供時代からよく知っているデニー(NZのレジェンド的ライダー)も登場したし、さらにこの手のビデオの登場ではあり得ないという童夢くんも参加してくれた。彼はプロダクションとの関係もあり、肖像権などいろいろ問題もあるのだが、このビデオのためにそれをうまくクリアーにしてくれた。
カナダのレジェンドのケビン・ヤングは、元々僕が15年前始めたカナダに来た時のルームメイトでもあった。そのケビンも伝説時代を終えて、今では子供もいるパパ。そんなケビンが浪人3に参加してくれた。さらには小松吾郎という総合滑走能力では、日本が誇る伝説な男も参加してくれた。吾郎も彼がウィスラーの中学生時代からよく知っているライダーで、初代DYNAMITE KIDS(これを略してdmkになった)の看板でもあった。そして、それを撮影したのは僕の弟分でケガさえなければ確実に日本最高峰になったであろう周くん(高石)だ。ちなみに彼は2代目サムライ・ライダーとして、浪人2でも登場している。
女の子では、ジブ界で日本女子最高峰のマリちゃん(水上)も積極的に、フッテージを提供してくれた。彼女の扱いは、密かに女性ではトリ(注:編集でわかりにくいが音楽の入れ方でそうなっている)として登場させている。また、初登場のC★4。彼女は、女性ライダーではミッチャン以来の僕が売り込みをしたライダーであるが、着物姿で登場している。一瞬入るパーティ・シーンではクリス(ブラウン)も登場。ちなみにクリスも中学生時代から知っているライダーで何とも縁が深い人が登場している。
また、往来の浪人ライダーたちも健在! メインのルーブ(ゴールドバーグ)は、最高のバックカントリー・ライディングを見せた。きっと浪人1、2でしかルーブを知らなかった人は、彼の本来活躍しているステージでの輝きを見ることになるだろう。そして、トヨタ・ビッグ・エアーを制したマーク(アンドレ・ターレ)もジブ主体の映像を見せているし、そして何よりジブ界の最高峰シモンにはトリを任せた! またシモンの相棒のフレイザーも初登場。こいつもまだ18歳だがメチャうまい。デニス親分ももちろん登場している。視聴版ビデオでも「浪人3 Right now!」のメッセージをもらった。
他にも浪人1から出てもらってくれている直也(国広)がパウダーを主体にジブも行い、ずっと昔から応援しているコジローもキンク・ボックスなどのシーンで登場。そして新入りのヒロミちゃん(高橋)はアマチュア・ライダーだがボックスでメッチャカッコいいシーンを見せてくれる。さらにライアンは、まさにジブ先生で多くのトリックを見せてもらった。実のところ一番仕事をしていたりして、というほどだ。
ところで「肝心の擦り侍は誰か」って?
もちろんトオルしかいなかった。このハウツーのプログレッション原案を書き、何より一番理解している人間がやるべきだと考えたのだ。彼はスポンサーを持つプロでもないが、僕は世界で一番この企画を行うのにふさわしい人物と考えたのである。そしてトオルのしっかりしたハウツー演技を伝えるナレーションを担当したのは自分。もちろんこの企画を一番理解しているし、あとずっとサムライ・ボーダーをやっていたからね。何より、プロのナレーション屋に頼むよりも、自分の気持ちを伝えるのだから自分でやるのが一番いいや!と思った。もちろんプロのナレーターを呼ぶお金もなかったし(笑)。ルーブもちょっと考えたけど、結局、訳の関係でテロップになるし、そうなると伝える情報量が一気に減るのである。
さらに一般の失敗役モデルがカオルちゃんだ。だって本当に擦り初心者だったので、彼女がメイクする姿が一番最高だったのだ。
そして、自分のハウツー作りの右腕として活躍しているハジメも、カンジくんの「ハジメちゃんジブうめえ~」という言葉で、出すことを決めた。これもまったくの素人だが、普段からシモンとかと滑る機会がありスタイルを磨いていたし、またスタイルをひじょうに研究し実践していた努力派だったので、登場してもよかろう、と思ったのである。そして何より、dmkクラブ員から浪人3に登場させることは1つの目標でもあったので。またハジメも強くそういったことを求めていた。3年前、英語が話せなくてシーズンパスを買うのに躊躇した若者に「バカ野郎、間違ってもいいんだ。それが勉強で、それがお前にとって大切なんだ」と言ったけど、あれからずいぶん成長したと思う。もちろんハジメはこれから100倍(?)成長するだろうけど。
それともう1つ大切なこと。あの日のミーティングで集まったのは、このハウツー作りの大元になったので、「ハウツービデオ制作委員会」というメンバーに認定した。
ところで、このビデオを作っているのは、これまた元ウィスラークラブ員のアキという奴なんだけど、先日、東京で会った時にこんなこと言っていた。 「来年は浪人製作を休みたいです。就職活動をしたいと思います。」 僕はその時、もちろん「来年もやろうよ!」と言いたかったけど、そんなこと言えなかった。なぜなら、彼は本当に多大な時間を犠牲にして、dmkに懇親的な活動をしてくれたのである。最低限のマナーとしての報酬は払ったけど、彼の仕事に対してきちんと払えなかったのも事実である。この浪人製作は、多くの方たちの協力でできているのも事実だが、僕とアキの二人三脚のパワーがなければ間違いなく作れなかったもの。自分たちは本当にこの作品たちを愛していたし、これからもやりたい、と思うのは当然のことだ。
しかし、アキは可愛い嫁さんももらって、きちんと食って行かないといけない身。それなのに、dmkの仕事やその他もろもろウエブ製作の仕事など不定期的にやっている状態。だからアキがきちんと定職したいという気持ちも十分理解できた。
僕は気持ちを入れ替えて「最後の作品という気持ちでおもいっきりやろう!」と思った。そしてアキもそう思って、改めて最後のパワーで編集したに違いない。そんなアキがこの浪人3で、短い時間だけど「天からのお告げ(?)」のナレーションを読んでいる。ほんのちょっとだけ、こういう形でも浪人3に登場できて良かった。あっ、そうそうそのアキの奥さんが、タイトル浪人という字も書いている。彼女は習字が実にうまいのだ。
こうして改めて考えると、本当にたくさんの協力があり成り立っている浪人製作。みんなに「ありがとう!」と言いたい。
ともかく、この浪人3はある種、僕のスノーボード人生20年の集大成になっている。それだけに思いも強いし、またその思いだけでなく多くの人に楽しんでほしい、という願いを込められている。現在の僕の最高峰作品。とりあえず04年度の通信簿かな?とも言えるものだ。
もちろんまだまだ通過点だし、反省すべき点もすでに見つかっているが、間違いなく浪人1、2を上回る作品ができた!という自信がある。だから、今年は多くの人に買ってもらいたくて、値段を聞くアンケートを行っている。そう、僕はまたまた基本的なこと「値段に関するリサーチ」を行っているのである。
それにしても、3年目にしてやっとのことで、基本的なことを行った浪人3製作。まだまだ自分もアマチャンだと思いつつ、ともかくたくさんの方に買っていただくため、リサーチ結果に殉ずる値段を出す度胸を決めているのだった。