文:齋藤 稔
先日長野で滑る機会があったんだけど、この時に思いがけないセッションを楽しむことができた。たった一本だけの短いセッションだったけど、久々に気持ちのいいセッションだった。
「雪、重くなっちゃってるね~」
僕に声をかけてきたのは一人のスノーボーダー。BURTONのCUSTOMとCFXのセットに青いウエア。地元のローカルだろうと思いながら「いや、朝は結構気持ちいい雪でしたよ。トラックもほとんどついてなかったし」バインディングを外し、ゴーグルをとって答えると、そのスノーボーダーもゴーグルを外した。その顔を見て僕は驚いた。ビーニーからでている髪の毛は白髪交じりで、何よりも目尻のしわが深く刻み込まれたおじさん(推定50代真ん中?)だったからだ。何もおじさんのスノーボーダーが珍しいんじゃなくて、その若い格好とその人のギャップに驚かされた。第一印象は「若いおじさんだな」と思ったくらいだったのが、「そうかい。今日はゆっくりきちゃったからな~」と言いながら足早にゴンドラに乗り込んで行ったその姿は、パウダーを逃したスノーボーダーそのもの。(ちなみに前日の11月27日、白馬は大雪でこの日も朝から極上のパウダーを満喫できた)僕もゴンドラに乗って上まで上っていき、バインディングをつけていると、さっきのおじさんが「籠もってるんですか?」とまた声をかけてきた。そこで僕が休みが取れたんでせっかくだからと言う感じで話しているとそれとなく、じゃあ滑りますかってことで、おじさんとのセッションが始まった。
初めは後ろを滑っていたんだけど、このおじさんかなりうまい。無駄のない滑りで、まだ残っているパウダーをヒットしていくライン取りも軽やか。若いスノーボーダーが立ち往生しているような荒れたバーンでもきれいにターンしていく滑りは最高にカッコいい。その格好に始め驚かされたが、滑りはそれ以上に驚きだった。途中ノーズが刺さってこけてしまっていたが、楽しそうな笑顔からは余裕があふれていて、僕も心配しないでそのまま下まで滑りきって、おじさんが来るのを待っていた。バインディングを外しながら「いや~、年かね。もう足にきちゃったよ」と満面の笑みでとても満足そう。「ところでおにいさんの板はなんだい?」と僕の板(5年くらい前のBURTON・SUPERMODEL68)を見ているので、説明していると「そういえばBURTONにfishとかいうのあったよな? あれが欲しくてさ~」というのでまたもやfishの説明をしてあげると「良さそうだね。今日は56だけどパウダーの時は69を使ってるから。1月2月はそのくらいないと楽に滑れないんだよ」とこれまた驚かされた。このおじさんただ者じゃない。何しろ最後は「レストラン経営しているから、これから仕事しないとね。おにいさんはもっと楽しんで行ってよ」とこれからレストランの仕事に行くというのだからもう完全にやられた。久々に本当にカッコいいおじさんに会った楽しいセッションはこれにて終了。僕はそのあとも一時間ほど滑っていたんだけど、このおじさんくらいカッコいいスノーボーダーは他には見当たらなかった。
長野からウチに向けて車を走らせながら「あのおじさんの作った飯うまいんだろうな~」と何度も思った。あれだけカッコいいおじさんの作る料理だからまずいはずもない。次に長野に行く時は教えてもらった店に必ず寄っていこう。