スノーボード・ビンディングのディスクスクリュー深い話

 

文:谷田部 馨信

この記事を読んでいただいているみなさんは、ご自身でビンディングを取り付けたり、スタンス幅やアングルを調整する方が多いかと思います。

ビンディングの取り付けは、安全にもかかわってくることです。
シンプルなパーツでありながら奥が深い「ネジ」について、大切なことをお話します。

これまでに、ディスクスクリューの緩みを経験した方は多いのではないでしょうか。
スノーボードのビンディングには、強い力がかかりますし、振動や水分、汚れなどにより、ネジが緩んでしまうことがあります。定期的な確認、増し締めは必要ですが、僅かな手間と理解を深めることで、ネジは緩みにくくなりますので、より安全なライディングに繋げることができます。

まず、ネジの仕組みを簡単に説明します。
多くのビンディングに採用されているのは、「M6・ピッチ1mm」(直径6mm、ネジ山の間隔が1mm)のネジです。硬そうな金属のネジですが、締め込んでいくとバネのように引き伸ばされます。引き伸ばされたネジが元に戻ろうとする力(軸力)で、ネジ軸部のネジ山とインサートのネジ溝に摩擦力が発生して、ネジの緩みを抑えているのです。

ドライバーで締め付けても、ネジが引き伸ばされる感覚などまったくありませんが、メカニズムとしては、そのようになっています。

理論的な話ですが、それぞれのネジの設計以上の力で締め込むと、塑性域(そせいいき)に入り、永久にひずみが残り、ネジが元の長さに戻らなくなるため、逆に緩み易くなってしまいます。

スノーボードの場合は、インサートの素材がネジほど強くありませんので、適性トルク以上の力で締め込むとインサートがダメージを受けますので、ネジが塑性域に入ることはないと思われます。

大切なボードが傷まないように、バインディングを取り付ける際は、サイズと規格が合ったドライバーを使用し、適正なトルクで締め付けることがとても大切になります。

多くのメーカーは、一般的なプラスドライバー(PHILLIPS)の形状に合うネジを採用しています。

一部のメーカーは、ポジドライブ(POZDRIV)という規格のネジを採用しています。スキーのビンディングの取り付けスクリューは、このタイプになります。

ネジの形状にあったドライバーを使用しないと、ネジ頭部のプラスの溝をなめてしまい、十分なトルクで締めることができなくなりますので注意が必要です。

コンパクトな携帯しやすいドライバーを持っている方も多いと思いますが、雪上以外では、グリップが大きく握りやすいドライバーの使用をお勧めします。

締め付けトルクは、ビンディングのメーカーによって違いますので、取り扱い説明書で確認してみてください。
大まかな目安としては、4Nm程度です。しかし、トルクレンチやトルクドライバーがないと、正確な取り付けトルクは測れません。もし購入店にてトルクドライバーを使い、適正トルクで取り付けたものがあれば、通常のドライバーで少し緩めて締め直すと、どの程度の強さか体感できます。

トルクレンチやトルクドライバーは特殊で高価な工具ではありますが、自転車や車の組み立て、調整、整備には必須の工具ですので、様々なところで使われています。

(トルクドライバーは、設定したトルクに達すると、クラッチが働き空回りする仕組みのドライバーです。)

あくまでも目安としての話ですが、力が入れやすい大きなグリップのドライバーを使用する場合、男性が片手(もしくは軽く握っていない方の手を添える)でしっかり締める程度になります。両手で握って、力いっぱい締めるとオーバートルクになる可能性が高いです。

新しいディスクスクリューには、青・赤・緑など色が付いた緩み止め剤が塗られています。これは多くの場合、ナイロン系樹脂で、ネジ軸部のねじ山とインサートのねじ溝の摩擦力を高め、緩みにくくする効果があります。何度もネジを取り外していると、次第に削れて落ちてしまいますが、5回ほどは効果が継続すると言われています。

元々塗られていた緩み止め剤が取れてしまっても、市販されているゆるみ止めがあります。
”Loctite (ロックタイト)”という製品は、比較的手に入れやすいもののひとつです。スノーボードならば、中強度タイプが適しています。(使用方法は、製品の取り扱い説明書でご確認ください。)

ディスクスクリューが緩みやすくなったと感じた場合は、一度ビンディングを取り外し、ネジとインサート内を確認してみてください。水分や汚れが付着していると潤滑剤のようになってしまい、ネジ軸部のねじ山とインサートのねじ溝の摩擦力が弱まっている場合があります。ネジとインサート内の水分や汚れをウエスなどで拭き取りきれいにし、取り付け直してみてください。

ネジを新しいものに交換する際は、ご使用のメーカーのものを強くお勧めします。

ビンディングは、それぞれのメーカーにより、細部に至るまでしっかり設計されています。同じサイズのネジでも設計に違いがあります。

一般的な日本製皿ネジは、座ぐり角度(皿部分の角度)が90度になっているものが多いです。

しかし、ビンディングのディスクスクリューは、メーカーにより様々です。

座ぐり角度が鋭角のものもあれば、鈍角のものもあり、皿部分が滑らかな表面であったり、ギザギザしていたりします。

このネジの違いは、ディスクの形状、ワッシャーの形状や有無などに関係しています。

また、ディスクの設計もメーカーごとに特色があります。
ネジを締めこむことでディスク自体が僅かにたわみ、ビンディングのベースプレートを押さえる力を増すものやベースプレートとディスクが噛み合う部分が、皿ネジのように角度がついているものなど、メーカーごとにビンディング全体でとてもよく考えられて造られています。

ですから、ディスクスクリューを交換する場合は、ネジの径、ピッチ、長さが同じでも、違うメーカーのものは、使用しない方がいいのです。

スノーボードは、用具が滑りに及ぼす影響が大きいスポーツです。
滑りのスタイルや滑る山のコンディションにマッチするセッティングを探すことも、スノーボードの楽しみのひとつではないでしょうか。
その際に、ネジやインサートのメンテナンスを丁寧に行い、また定期的なチェックをすることで、安心して滑りに集中できることに繋がれば幸いです。

Happy Snowboarding!

谷田部馨信(やたべ・きよのぶ)プロフィール
アメアスポーツ株式会社にて、主にスキー、スノーボード用具の品質管理を担当。
ISIA(国際プロスキー教師協会)認定インターナショナルスノープロ。SIA(公益社団法人日本プロスキー教師協会)、CSIA(カナダスキーインストラクター協会)、CSCF(カナダスキーコーチ連盟)、CASI(カナダスノーボードインストラクター協会)会員。
1986年から23シーズン、日本、カナダ、スイスのスクールにて、スキー・スノーボード・テレマークのレッスンをフルタイムで行ってきた。
1994年Powder 8 World Championshipsに出場、1999年SIA指導法レポートコンテストで優勝。
開田高原マイアスキー場・マイアスキーアカデミースーパーバイザー、白山瀬女高原スキー場支配人代理、株式会社パンダルマン取締役兼パンダルマンキッズスクール校長などを歴任。2011年より現職。

滑走面の深~くてためになるお話/谷田部 馨信