【コラム】スノーボード人生に賭けた男

文:飯田房貴

プロのスノーボーダーになりたい。そんな夢を追いかけて、ウィスラーにやって来る若者が絶たない。
僕が初めてウィスラーにやって来た14年前から、そんな夢を求めてやって来た者を見て来た。そういう自分もその類の仲間であった。14年前のスノーボードというのは、今では考えられないほど誰にも知られていないスポーツだった。当時、スノーボードをやっていた者にオリンピック種目になるなんて思いもしなかったのでは!? そんな時からウィスラーという恵まれた環境でスノーボードを始めたお陰で、僕はプロとして雑誌やビデオなどメディアに登場して、ある程度の活躍をすることができた。長い歳月の中で、僕は執筆者、カメラマン、輸入代理店業務、メーカー・アドバイザー、ビデオ・ディレクター、そしてこのホームページ運営へと、様々なことをやることによって生計を立てていたが、常にスノーボードに関する職業が就けたことはひじょうにありがたいことである。
しかし、その反面で夢を諦めた者も多い。今日もちょうどそのような者からメールが来た。

「ウイスラーでは大変お世話になりました。ありがとうございます。一生に一度のカナダのワーキングホリデーで一生思い出に残る思い出ができました。
今からちょうど1年前、自分の酢のボード人生に終止符を打ちたくてカナダにやってきました。もう年だし早くあきらめて将来のことも考えないといけないし、プロになれたとしても金を稼げるだけのプロにはなれる自信もなかったし、このまま続けても先のないことだとわかってはいました。でもあきらめきれない自分がいて、苦しかったです。だからウイスラーで1年間スノーボードだけやろう決心して行きました。
ウィスラーでは自分の周りの子達のスノーボードのうまさと上達の早さに驚かされ、自分の下手さと上達の遅さに嫌気が差し、本気であきらめようと思いました。良い結果が出せたと思います。成功したワーキングホリデーでした。今は本当にすがすがしい気分です。これからは趣味でスノーボードをやっていこうと思います。
日本からフサキさんの活躍を応援しています。今シーズンも頑張ってください。」

僕はこの文を読んで涙が出た。特に「このまま続けても先のないことだとわかってはいました。でもあきらめきれない自分がいて、苦しかった」という一文。それでもウィスラーにやって来たというせつなさは、同じスノーボードを大好きな人間として痛いほど気持ちがよくわかる。

このメールをくれた者がパイプにいたことを思い出す。雨の日も雪の日も、まさかこんな日にと思える暴風の日も彼はひたすらハイアップを繰り返していた。僕のスノーボード人生の中で、これほどハイクアップをする者はいなかった、と思えるほど彼はハイクをしていた。彼のトライを続ける姿勢には、心打たれるものがあった。ウィスラーに篭っていた人なら、きっとわかるだろう。「きっと、あの人に違いない」と。彼はとても上達したと思う。そして、その結果、僕は彼ならプロになれたとも思う。だけど、食えるかどうかと聞かれれば、どんどん若者が台頭して行くこの業界で、彼はプロという肩書きだけは手に入れても、とても食えるものでなかったと思う。そういった意味では、本当の意味で飯を食えるプロにはなれなかった、と思うのだ。

プロ・スノーボーダーというと聞こえはいいが、元々多くのプロ・ライダーたちが活動を続けるのが大変な現状である。そういった意味では、イメージとは裏腹にかなり過酷な世界と言えるだろう。もちろん有名であり、しかもいいスポンサーがついていれば、1千万円を稼ぐことも可能だ。だけど、そんなライダーはほんの一握りのライダーしかいない。だから、多くのプロはアルバイトなどを続け、懸命に活動を続けるのである。そういった状況の中、今、アマチュアがプロを目指し、飯を食うというのは本当に大変なことだし、もはや大変という言葉を通り越して困難。否、大困難である。

あきらめられない。苦しい。そんな思いが、彼に誰にも負けないほどのハイクをさせたのかもしれない。ある意味、不器用な男である。だけど、自分の思いを捨て去ることができずに、ウィスラーまでやって来る。ビンボー生活を続けながら、スノーボードを毎日やる日々。
僕は第一線のプロとはかけ離れた活動をしているが、スノーボードに関わるプロとして、このようにたくさんの夢が砕け散った上で成り立つ業界に住んでいることを改めて認識し気が引き締まる思いである。僕の仕事というのは、こういった夢の破片の上に成り立ち、僕はたまたま幸運者に過ぎないことを。だから、常に彼以上にスノーボードを愛し、情熱をぶつけてこのスノーボードというものを普及させて行くプロにならなければ失礼になるだろう。僕が甘えて停滞すれば、失礼という以前にこの業界は僕を蹴飛ばすに違いない。こういったことを改めて感じさせてくれた彼には、心からお礼を述べたいと思う。どうも、ありがとう。彼の前途に成功あれ!