ある無名の日本人ライダーが挑んだTTR 5 STAR大会

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今年の夏、開催されたTTRオープニングマッチとなる『Biallbong Ante Up』ウィスラー大会には、世界から、そして地元カナダからトップ選手が参加した。
きっとすべてのライダーは、スノーボード・メーカーからの遠征サポート費用や用具提供のスポンサードを受ける選手たち。TTR 5 STARをという権威高い大会に出るにふさわしい選手たちだ。
しかし、この大会に唯一人、まったくの無名のノー・スポンサー・ライダーの日本人ライダーが参加していた。
彼の名前は、大久保富伊。年齢は21歳。地元ウィスラー・ローカルたちは、トミーの愛称で呼んでいる。ウィスラーのギリシャ料理レストランで仕事しながら、スノーボードをしている若者だ。ごく普通のジャパニーズ・ローカルライダーである。
そんな彼が、なんと世界屈指の大会で14位という輝かしい結果を残すことができた。
誰にも知られていない、もう1つのビラボーン大会のストーリーをご紹介しよう。

Story & Photo by Fusaki IIDA

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そもそもトミーが、参加したきっかけは、dmkニュースがきっかけだった。そこには「大会の挑戦者を求む!」というようなことこが書かれていたのだ。

元々、トミーはウィスラーの専門学校CSBAに通ってプロ・スノーボーダーを目指していた。その時、カナダのプロ・ライダーたちを見て彼らに憧れていたのだ。
その憧れのカナディアンに勝ちたい!というのは、トミーにとって夢であり、目標だった。彼は、カナディアンに勝つには、あと2、3年は必要と考え、24歳に勝つ!という目標を立てたのだ。そこで、大会に、出場する決心をしたのだ。今21歳の自分とカナディアン(=世界のライダー)との差を知りたかった。そこの差こそ、次の課題である、と考えていたのである。

またトミーは、こうも考えていた。
ウィスラーの環境を使えば心身共に100%の準備が可能だ。その結果、100%の自分の力が出せる。自信が持てないことが自分の弱点なので、100%の自分が出せれば絶対に自信がつくハズだ、と。

そう、トミーの計画は、春から始まっていたのである。春のブラッコムの大きなキッカーで、TTR 5 Star大会の準備を開始したのだ。

朝起きると、必ず身体を起こすためのジョギングを行った。そして、股関節回りを柔らかくする体操をして、スノーボードへ。
スノーボードを終えて家に帰ると、今度は明日へ疲れを残さないためのジョギングを行った。彼は、夜にレストランで働きながら、このルーティーンを繰り返した。バイトが休みの日は友達に協力してもらい、他のスポーツ、テニスやバレーボールで運動もした。たくさんのスポーツをして、体全身を「ready」の状態まで持っていくという作戦だ。

大会前日。公開練習日、トミーは早めに山に上がって巨大キッカーに挑むことにした。ここまで大きなキッカーにトライするのは、初めてのこと。そびえ立つモンスター・キッカーに圧倒されそうになるが、勇気を奮い立たせた。巨大キッカーに挑戦することは、トミーの「カナディアンに勝つ!」という目標においては、通過しなくていかないことなのだ。

スタード台に立ち、最初はともかくスピードのチェック。飛ばずにリップで止まり、どれほどのスピードが必要であるか思考する。
トミーだけでなく、多くの選手もこのようにスピード・チェックをするもの。この巨大キッカーが初のトミーにとっては、必要不可欠のウォーミング・アップだ。

その内、誰かが飛ぶようになった。どれほどのスピードがあれば、ジャンプ台とランディングの間にできた谷を越えられるか、だんだんとわかって来る。

トミーにとって初日の課題は、ストレート・ジャンプで飛び巨大ジャンプの感覚を補うことだ。この日、トミーは20本ほど上がって、実際に10本だけ飛んでみせた。しかし、本人にとって、納得できるジャンプはたった1本だけだった。スピンはまったくなし。ともかく、巨大キッカーに慣れるための一日に終わった。

公開練習日の帰りのゴンドラで、トミーは笑顔だった。無事ケガもなく、大きなキッカーを飛んだ安堵だろう。
しかし、記者は、この時、まさかトミーが大きな結果を残すとはまったく予想できなかった。この日のトミーの練習を見ていたら、スピン・トリックなんかしたら危ない、と思ったのである。

大会当日も、トミーは誰よりも早く山に上がった。そして、早速、公開練習に挑む。しかし、まだ慣れない。「行こう!」という思いとジャンプ直前になり「ダメだ」という思いが交錯して、その中途半端な気持ちが、キャニオンに真っ逆さまに落ちるというアクシデントもあった。幸いケガに至らず本番を迎える。

1本目、トミーは、フロントサイド900を狙った。これは数多くの公開練習で一度も試していないトリックだ。しかし、トミーは春のブラコムのパークで、フロントサイド1080までできる確信があった。しっかりとメイクしたことはないけど、自分の中では絶対にメイクできるハズのトリックである、と。イメージだけは先行してメイクってたのだ。

しかし、トミーの狙ったフロントサイド900は、スピードが足りない。あっ、距離が短いて危ないと思った瞬間、ランディングに届かずデコ落ちしてしまった。幸いケガに至らず一安心。

あと、滑れるのは、1本だけ。記者は、ともかくケガのないように無事だけを祈っていた。もう、無茶をするなよ、と。しかし、トミーはチャレンジすることを恐れずにフロントサイド1080を狙った。考えていたグラブは、インディとメランのダブルグラブだったと言う。この時、スノーボードの神は、努力を続けた若者にほほ笑んだ。

フロントサイド1080、グラブはインディだけだったけど、スタイル抜群で決めたのである!もしかしたら、さらにメランまでつかむ、という意識の強さが、きれいにインディ・グラブまで持って行けた理由かもしれない。

この時、トミーの公開練習日からの努力を見ていたMCは、燃えた。超スタイリッシュなエアーを決めた!と叫んだのだ。ジャッジ陣も、この声に押されるように高得点を出した。なんと、トミーは、初の国際大会、しかもTTR 5 STARという大きな大会で、並いる強豪の前で14位に入ったのである。

ノースポンサーの日本の若者が、まさに自分の力で勝ち取った快挙!

トミーにとって、この大会に出ることは、これまでの21年間の人生の最大の決断だった。時給800円で仕事してウィスラーで生活しているトミーにとっては、1万5千円のエントリー費用も安くはなかった。しかし、このトミーにとって人生最大の決断は、大きな恩恵をもたらしてくれた。人生で最も嬉しい瞬間が訪れたのである。

これから何十年も人生を歩むトミーにとって、この日のことは一生忘れることはないだろう。


トミーのプロフィール

名前: 大久保 富伊
生年月日: 1989/11/21
血液型: AB
出身地: 東京都
スノーボード歴:6年
経歴:05-06 CSBA卒業
好きなスノーボーダー: E-man Anderson, Andrew Geeves, Halldor Helgason, Aaron Bittner, Mikkel Bang
スタンス: レギュラー 55cm F9 B-9
好きなトリック: ツリーラン中に遊びながらの当て込みスピン

感想
Billabong Ante upに出場したことによって世界のトップの共通点や、世界レベルの条件が前よりもはっきり見えてきたので、これからもそれをベースに横乗りの追求をしてみたいと思います。
そして、また憧れのカナディアンとの勝負に挑戦したいと思います。
次はこの経験を活かし勝ちにいきます。
また、今回の大会では、体調管理からトレーニング、練習、準備、生活面など、たくさんの人に支えてもらい、その結果、自分が今できる最高のパフォーマンスを大会本番ですることができたと思います。
支えてもらった全ての人にありがとうございます。

 

 

 

 

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