2006年、トリノオリンピックでオリンピック正式種目となったスノーボードクロス初の日本代表に選ばれ、7位入賞し一躍脚光を浴びることになった藤森由香。さらにメダルの期待が高まっていた2010年バンクーバーオリンピックでは、大会公式練習の際に突風に煽られて転倒、まさかの頭部の打撲傷を負い棄権に。そして前回、27歳で挑んだソチ五輪では、準決勝で転倒してしまい、これまで築き上げて来た技術を活かしきれず悔しい結果となってしまった。
もう五輪挑戦はないか?と世間が思っていた時、藤森由香はスノーボードクロスからスロープスタイルに移籍することを電撃表明!!
もし、4度目の五輪となると、今度は31歳での挑戦だ。しかも本人にとっては初のスロープスタイルでの挑戦という前代未聞の大チャレンジ。
しかし、今、彼女は、その挑戦をとても楽しんでいる。
現在カナダのウィスラーで1か月間の自主トレ期間を終えたところで、先週、日本に帰ったところ。カナダでさらなる飛躍を誓った藤森由香、その最新インタビュー。
インタビュー&写真: 飯田房貴
カバー・デザイン:Shuki
セブンスヘブンの巨大キッカーでジャンプ
――あの世界のトップライダーしか飛べないセブンスヘブンに設置された特別な巨大キッカーを飛んだ聞きました!
藤森:通常であれば、カナダのナショナルチーム、もしくは世界のトップライダーしか飛ばせてもらえない特別なジャンプと聞いていたのですが、幸運にもトランスの撮影(注:アメリカ本国のトランスワールド誌)に参加することができました。ちょうど、「私もいつか飛んでみたい!」とブログに書いた矢先に。
――とても良い経験でしたね!先日、カナダのナショナルチームをジャンプしているシーンを見て、その巨大さに驚いたけど、女子であのジャンプ台は驚きです。どんな経緯で参加できたのですか?
藤森:ウィスラーのビレッジで偶然スペンサー(オブライアン)に会って「ユカ、トランスの撮影のセッションに撮影しないか?」と誘ってくれたのです。その前にバートンのガールズ撮影がありアンナ(ガッサー)と一緒にスペンサーがいて。たぶんなのですが、そこで認めてくれたんだと思います。
すでに撮影セッションは始まっていたのですが。その2日後に、私の急遽参加が決まった形です。
――それにしてもセブンスでのセッションは凄いメンバーだったとか。
藤森:スペンサーの他に、アンナ・ガッサー、クラウディア・メドロワ、シーナ・カンドリアン、エンニ・ルカヤルビ(※以下、ライダー紹介参考)。キッカーは大きかったけど、キッカーを作ってくれた方がとても良いジャンプ台を作ってくれたので、飛びやすかったです。お蔭さまでこれまでに飛んだことない飛距離を出せました。
※
スペンサー・オブライアン:世界最高のスロープスタイル女子選手の一人。女王ジェイミー・アンダーソンをも脅かす存在。
アンナ・ガッサー:史上初の女子ダブルコークをメイク。現在、女子スロープスタイル最高峰の一人でその上昇率の高さで世界トップを狙う。
クラウディア・メドロワ:今季女子で初のダブルバックサイド・ロデオをメイク
シーナ・カンドリアン:ソチ五輪4位、スイス・ラークスでレディースセッションをプロデュース
エンニ・ルカヤルビ:ソチ五輪銀メダリスト
――さらに、今回のカナダでの撮影で女子最高峰のフィルムクルーのFull Moon Filmにも参加したということで、これはビックニュースです!Full Moon Filmと言えば、カナダのレジェンド女子ライダー、リアン・ペロッシが立ち上げたRunway Filmsの流れで生まれて、最新作のラインナップを見ると、アニー・ブーランジェ、ロビン・バン・ジン、マリー・フランス・ロイ、ヘレン・シェティーニ、リアン・ペロッシ、ハナ・ビーマン、ジェイミー・アンダーソンというレジェンド女子ライダー総出演!!
藤森:Full Moon Filmは、リアン・ペロッシがプロデュースで動いているクルーですが、そこにブラッコムのパークをテーマにしたパートを作ると聞きました。ジェイミー・アンダーソンらに交じって、出演するチャンスをもらいました。だけど、まだ実際に登場できるかは未定なんです。もしかしたらワンカットかも!?でも、こうしたチャンスをいただけて、本当に嬉しいし感謝しています。
――層々たるメンバーで、ゆっち(藤森由香の愛称)が彼女たちに勝てるポイントは?言葉を変えれば、彼女たちにユカ・フジモリのどんな魅力を感じて、ウエルカムしてくれたのだと思いますか?
藤森:どういったところに魅力を感じて撮影に誘ってくれたのかはわかりません。
技で言ったら、まだ私は彼女たちに埋もれてしまいます。
ですが、私も自分なりに映像で研究したり、自分の癖や、理想を追求してきました。なのでそういうものが伝わったのかなと思いました。
“私のしたいスノーボード”があって、それを映像やコンペティションで見せれたらいいですね。やりたいグラブを理想の形に創造できる自由さを。自己満足かもしれないけど。それが解って認めてくれる人はいるハズ。
ちょっと抽象的でわかり難いですね・・・。
私もたくさんのライダーのスタイルや創造に感動して、自分もやりたいとい思いでやって来ました。
大切なのはその人達を目標にしているけど、劣らないという気持ちでいることです。
カナダ自主練のテーマ
――そういうゆっちのスノーボードに対する思い、強い意志。そういったことが、彼女たちを動かしたのだと思います。五輪も大切だけど、映像でも自分をしっかりと表現したいという気持ちが伝わります。
今回、カナダに来たテーマを教えていただけますか?
藤森:ブラッコムのパークはジャンプが大きいけど、ランディングの衝撃があまり無く練習がしやすいと聞いていました。
トリックの向上として、ダブルコーク1080のトライ、2方向の900ができるようになること。あとは今できる技の精度を上げること。
――カナダ自主練での成果は?
藤森:うーん・・・、正直、撮影が多くなっちゃって(笑
でも、2方向の900は、かなり良い感じで仕上がって来ました。
――その他の課題は?
藤森:抜けの見直しとグラブでのバリエーション。いつも同じグラブになってしまいがちなので、高回転でいろいろなグラブができるようにしないと。
高回転をやっているからカッコいいでなくて。そのスピンを支配しているからやりたいグラブができてカッコいい、ということです。
――なるほど。ただクルクル回るのではなくて、そのスピン・トリックを支配し、自由なグラブができるということですね?
藤森:はい。私はまだ技によって抜けの荒さが目立つのでグラブができなかったり、決まったグラブしかできないので。
盟友・広野あさみの存在
――今回、カナダでもいっしょだけど、広野あさみとライディングする姿をよく見かけます。ゆっちにとって彼女の存在とは?
藤森:スノーボードに対して、真面目。人間的に、おもしろい!
そして、同じ目標や目線で練習できる仲間。
私が苦手なことをあさみに教えてもらったり、逆にあさみが苦手なことを私が教えたり。お互いの短所をサポートし合ったりしています。
あと、あさみは、周りの人たちから人気があって。彼女からはそういう人間のお付き合いのことも学ぶことは多いです。
空気感が合うと思っています。
――そのあさみといっしょの最近作っている動画で、80年代を意識したバブル時代を象徴する「私をスキーに連れて行って」っぽいファッションを拝見しますが、あの時代のカルチャーに惹かれますか?
藤森:あの時代のファッションが大好き!
80年代スキーが大流行した勢いあった時代にも惹かれます。私がまだ小さい頃、スキー客の大人が心から楽しんでいる姿を見て育ったのもあります。
私たちの撮影も、とても楽しみながらやっています。
(注:実家が長野でスノーボードショップを営み、その関係で幼少の頃から雪に親しんでいた。)
これが最後のオリンピック
――最後に。今度で4度目のオリンピック挑戦となるわけですが、オリンピックに行くためには何が必要だと思いますか?
藤森:自分の理想になりたいという気持ちの強さだと思います。
――今度の五輪に出たら、藤森由香にとってそれが最後の五輪ですか?
藤森:はい。最後の五輪で最初の経験でしょう。
競技を転向してから一年、一年、凄く濃い経験をさせてもらっています。
今は「やりたい事」に対してシンプルに打ち込め、自分自身や自分の環境も変わってきています。そして環境の変化と共に私は素晴らしい方々とスノーボードを通じて知り合うことができ、日々助けられて支えられています、
オリンピックでメダルを取りたいという気持ちもですが、それ以前に人生を豊かに生きるために大切な心構えを軸にスノーボードで活躍していきたいです。
●関連リンク
2015年11月18日
新たな挑戦を楽しむ!/藤森由香
https://dmksnowboard.com/interview/yuka-fujimori-innsbruck
2009年10月27日
バンクーバー五輪に向かって/藤森由香
https://dmksnowboard.com/interview/yuka-fujimori-vancouver-olympic/