SBN誌人気コーナー「実用スノーボードの科学」著者/藤井 徳明

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フサキ(以下F):まずはスノーボードを始めたきっかけを教えてください。
徳明(以下N):かなり前からスノーボードは知っていたんですが、圧雪ではどうにもならないダメなモノだと思ってたんです。10年ほど前から冬は北海道の実家にこもって、ちょろちょろスキーをやってたんですが、そんなおり、雨でアイスバーンになったゲレンデを、あの“ダメなモノ”がガキガキにエッジ効かして降りて行くではないですか! しかも良く見れば、ふにゃふにゃのソフトブーツ。おりしも、超高価だったスノーボードもだいぶ安くなって来て、片足スキーでもカービングできる自分には、すぐに乗れて楽しいハズだと思ったんですね。アレだけ乗れればOKレベルだ、と。昔から気になっていたモノをさっそく購入したのがきっかけです。

F:実際にやってみてどうでした。
N:その後は、一発目に自信を無残に打ち砕かれました。転ぶは、斜面が恐いは、で。だけど、忘れていたその感覚が新鮮でした。とりあえず練習を始めたんです。そしたら、すぐにカービングがスキーよりはるかに楽なことや、深雪や悪雪を乗るのが簡単なことや、抱えて山を登るのもとても楽なのをを知り、これならスキー場でなくても、雪さえあればどこでも楽しめるとわかりました。そのままズブズブと深みにはまっていきました。

F:なるほど。ところで、スノーボードの科学は本になったほど人気があるんですが、あれを書いたいきさつは?
N:ちょっと説明が長くなりますが。始めて滑った時に、自分には以前スキーをやっていた頃のように時間がないと思ったんですね。そこで、まず家で作戦を立ててそれからゲレンデにいって、効率的に練習しようと。滑り始めから何が問題でどうなった、とか、何をやったらどうなった、という記録を付けてました。当時、すでに自動車の設計屋を10年やっていて、毎日、力がどう掛かるだの計算してました。そのせいで、どうしてそう動くのかが昔と違う感じでわかるんです。スキーの時は無意識にやっていた動作もわかってきたんです。

F:さすが科学に精通した藤井さんですね。
N:いやー、科学はわからないことばかりなんですが、仕事で計算する場合には、たとえば数式が解けなくても、答えを出すことが要求される。そこでコンピューターで無理矢理に解いたりするんです。しかも期限付きで。そんなことを毎日サルみたいにやってますから。

F:ははあ。
N:まず最初にターンに必要なものがわかって、スキーも含めていろんなターンのやり方があるけど、すべて同じ原理に統一して考えることができるようになったんです。それで最初は2時間くらいやって玉砕しましたが、作戦を立てて望んだ次の日、緩斜面だけどカービングのトラックを刻み込めたんです。これは楽しかった。

F:自分なりに作戦立ててカービングをメイクですか。凄いっすね!
N:うーん・・・、エッジ立ててバランスとればいいだけなんで。スキーと違う部分をこちょこちょっとやればあとはOKでした。ボードで認識した無意識の動作をスキーで確認すると以前より、確実に乗ることができるし、じゃあフェイキーはこうなるハズだと実験すると、思った通りに曲がれるじゃないですか!昔から記録はつけていて、荷重の方向とか矢印を書いてみたりしてたんですが、その矢印の意味がその時わかって来た気がしました。一枚の写真だけを見ると、どうにも着地できそうにないジャンプはどうなっているのか?スキーでクォーターパイプでエアーをやっていたのに、なぜボードでハーフパイプの壁が登れないのか?急斜面は?コブ斜面は?数々の疑問をそうやって解明していきました。

F:そうやって科学的に解明していくのって藤井さんが初めてでしょうね。
N:最初の頃に、“最速降下線”を考えて、ターンに応用するということを書いたんです。同じ高さを降下すると到達する速度は同じだけど、ラインによって時間が違う。これは発見だ!とおもったら300年前に解いていた人がいました。だから僕の書いていることは誰かがすでに思いついているのかもしれません。だけど、たまたま、思いつきをスノーボードに結び付けてSBN誌にひょっこり現れたのが僕だったのかも。解析していく手法は、仕事でやってるのと同じで慣れていたし。

F:フムフム。
N:その思いつきは、自分用にいろいろ書き溜めていたんですが、人が見たらどう思うだろうって、思っていました。そんな時、たまたま写真がわかりやすくてスノーボード・ニッポン誌を買ったんです。懸賞を応募するついでに「意見があれば」というコメントがあったので自分の考えをまとめて送ったんですね。

F:なるほど、それが掲載するきっかになったんですね。
N:そうなんです。半年くらいたって編集長から電話があって載せていいか?というので「かまわないすよー」と、それが始まりです。

F:だけど、それをうまく引き上げた編集長の方も、ある意味凄い才能ですよね。ところで、書く時にはどんなことに気をつけていますか?
N:持っている情報は出し惜しみしないということに。パチンコ屋じゃないけれど“大放出”というのを心がけてます。あとはなるべく“科学”という共通言語で、たとえば“ゆっくり動かす”といっても人によって程度が違う。科学的に言うと“1秒間に20cmの速度で”という。こうすれば誰がやっても同じ結果が得らるハズ。そういうふうに。秒速20cmとか20cm/secなんて書くと書くのは簡単なんだけどわかりにくいし・・・。

F:今後はどんなものを書いていくつもりですか?
N:次回のネタは、SBN誌の企業秘密の方がいいのかな? くわしくはお楽しみですが、そこでこの冬自分がやろうとしていることを大放出しようと思ってます。その中から何か出てくるかもしれません。何が出るかは自分でもわからないです。残ってるようじゃ“大放出”じゃないですもんね。

F:ところで、藤井さんはボードはメーカーもこだわらないし、同じボードを5年も使っているということですが、本当でしょうか?
N:5年使ったボードは、遅かったけど気に入ってました。あらゆるところに連れて行ったしソイツとともに“スノーボードの科学”もありました。しかしエッジがすでに折れていて、水が染み込み、いつ折れてもおかしくない状態になり、山に連れて行ってアクシデントがあるとヤバイので泣く泣く昨年新調しました。

F:5年も友のようにつき合ったスノーボードとの別れは悲しかったのでは?
N:知り合いに“ボードなんて道具だから、愛着なんて感じたこともない”という人がいるけど、僕は思い出とか愛着はありありな性質なんですねえ。性能だけじゃないです。性能、機能についていろいろ書いているけど、楽しみはそれだけじゃないですから。これはクルマにも言えますね。だから、ちょっとミリになりましたよ。

F:藤井さんにはとかく“科学”というものがつきまとうようですが、実を言うと反面とても人間的というが自然的な愛が強いんですね。
N:知り合いに板と一緒にシャワールームにはいって洗ってあげるというのがいますがそれほどは愛してませんけどね。友達ですよ。

F:なるほど。
N:新調したヤツは一年かけてまずまずに仕上がってきたので、しばらくそいつで行きます。競技をしてるわけでもないし、自分の楽しみのために乗ってるんだから。今あるモノを最大限に使いきるので充分なんです。無理して毎年新品を買う必要は僕にはありません。年間40日しかいけないし。新しいのを買うときは今のがダメになった時です。その時、テクノロジーが進歩し、スタンスが滑走中にズレてもわからない自分でも、違いが良くわかっていいと思います。新品のボード買う金で有休とって北海道に行って、みんなが仕事してる夕暮れに星を眺めながら、露天風呂でビールを飲める。しかも4年分。その方が僕にはいいんです。でも、折れたらすぐに買いますよ!予備ももちろんあります。

F:僕もそういうお金があったら、露天風呂とかの方にお金を使いたい口ですね。ところで、メーカーについては、どう考えているのですか?
N:メーカーについては、自分も含め、使っている人の意見が一番信用できる。すぐ折れるとか、滑走面がはげるとか、危ないところは選考外。ボードメーカーは数百社あると思うけど、作っているところは100社もないから危ないメーカーと同じところで製作されているものもパス。

F:なるほど。
N:あとは匂いというか好みというか・・・、とりあえず買ってみてチューニングしてみる。どうにもならなかったら買い直しですが、よければそのまま。いちおう基準があるのでそれにスペックがあっていれば、今はどのメーカーのモノでも、なんとかなると考えています。決めたらなじみのショップに注文。「×△○!?」これまたマニアックだねー、とか言われながら・・・。

F:web読者から質問を受けましたので、それに答えてください。ちなみにこの方は、藤井さんを本を持っている方で、以前にはオススメ・コーナーに投稿してくれた方、黒田さんと言います。質問は2つあります。まずは1つ目は、「藤井さんが考える最も合理的な滑り方を教えてください」とのことです。
N:はい、瞬間を考えた場合は、刻々と変わる地形や雪や進行方向に合わせて、重心の位置や身体を一番ムダがないようにコーディネイトしていくのと、流れを考えた場合は、ひとつの動作の流れが途切れなく次の動作へつながっていくのが合理的と思います。なんか抽象的だけど・・・。ただ自分は、タイムを競う時や、スピードが落ちると大変な深雪などではできるだけ“合理的”に滑りますが、敢えて非合理な滑りも多くします。一番楽しい滑りが自分には“Good Riding ”なんです。だから、人に何かいう時も”こういう方法もあるよ”といい”こうしなければならない”とは言わないんです。みんな同じ滑りだと見分けがつかないでしょ。

F:わかるなあ。つまり非合理が遊びで、そこに楽しさとかあるんですよね。2つ目の質問です。「毎年、道具が進化していますが、今後、どのようになると予想されますか?ボード、バインディング、ブーツ、などについて、それぞれ答えてください」とのことです。
N:どわー!これは何が出てくるか予想できないです~。 ただ“正常進化”ということばがあってクルマもそうですが、より軽く、強く、安く、小型になっていくでしょうね。新素材が開発されたりして。それからテクノロジーの進歩は、今までわかってなかったところも解明し、より機能的にマニアックなものが出るとともに性能がいいけど安いものもリリースされていくでしょう。っておもしろくない答えだけど、強いていえば・・・、バィンディングなんかは、ステップインが増えて来てるけど、ハイクの多い自分としては、今のところブーツが金具の分ちょっと重いのでそこが歩く時に何といっても辛い。ボコボコの山の中では、ガチガチに固定されてると楽でないし、そんなヤツもいるんで滑り方によってそれに適したいろんな種類が出てくると思います。それぞれケンカしないでお互いに認めあうようですね。人それぞれと・・・。アルペンでは厚底ブーツじゃないけど、底上げしたようなのが出てくるんじゃないかなーと思ってます。ボードは、.最近USの雑誌ではレールの写真が多くて、レール関係の記事もいっぱいです。そこでレール用のチューニングとしてバィンディング間のエッジを取ってしまう!! というのが最近の号に紹介されてました。“ビデオスターはこうして、彼らのアイテムを造っているのだ”とか載ってましたが、そんなの全然想像できませんでした。そんなボードも出てくるかもしれませんねー。だから何が出てくるか見当がつかんですが、強いて言えば“特化したもの”ってことでしょうか。スプリットボードもその1つでしょうね。これも増えてきましたね。でもスノーシューも楽しいよ!

F:フームフム。
N:ワクシング済みのボード。きっと手間がかかり過ぎるのと、ワクシングするとなるとエッジも仕上げんきゃならんし。でも一番の理由はワクシングしない人が90%とも言われる現状で、手間のかかるワクシングすると凄く高くなっちゃって買う人がいないということでしょうね。ブーツ。これは北海道にこもって毎日山をハイクするとなると、インナーの乾きが早いインナー取り外し式でないと困る。だからインナーレスが多くなったときヤバイなーと思ってましたが生き延びましたね。足の裏に接する部分は、平らでないと土踏まずの縦、横方向のアーチ(キャンバー)が使えないので僕は、昔ながらの縫い上げたインナーが選考基準だけど、最近は一体整形のものが多くなりました。まあ、全部それになったら改造して使えばいいんだけど。ボード業界ってほんとにいろんなものが出て来るんで、何がくるかは予想が難しいです。ただみんなよかれとおもって造ってるので失敗作もあると想うけど、そういうのは淘汰されてだんだん良くなってくると思います。

F:なるほど。
N:えーと、もうひとつあったな。へたり。これは外見的にはキャンバーが落ちてくるのでわかります。無理矢理曲げてもすぐにまた元に戻っちゃいます。具体的には今年のSBN誌 vol.2 にどうなるか例をひとつ書きました。でも滑走面は使い込むほど滑るようになるし、違いのわかる人は御買い替え、僕みたいにわからないひとは気にしなくていいと思います。某有名レーサーで3、4シーズン同じ板を使うという人もいるらしいし・・・、自分の場合、どういうふうに作用するかはわかるので、うまく滑れない時の原因を考える時に考えてみるくらいかな。

F:それでは最後の質問です。dmkのグローバル・インタビューでは、みなさんに聞いている恒例の質問です。藤井さんのドリームを教えてください。スノーボードに関係しないことでも、なんでもOKです。
N:うーん、難しいなぁ。こうなったらいいなーということは、冬は故郷の北海道に住んで、夏は波のあるとこで、ゆったりと暮らしたいなぁということかな。そして、一日ひとつやることがあると“忙しい”、ふたつになると”死ぬほど忙しい”なんて言ってみたいなぁ・・・。

インタビュー後記
実のところ初対面の時の藤井さんの印象は、違う惑星に住む人だった。科学という世界に住む遠くの人だと。ところが、インタビューをしてみると藤井さんは僕たちが感覚で考えるところを科学で追求して答えを探す、つまり哲学者であるように思えて来た。科学をやればやるほど答えがわからなくなる、という点もまるで哲学のよう。そして「一番楽しい滑りが自分には“Good Riding ”なんです」という言葉は藤井さんの悟りのように聞こえるのである。これからも藤井さんは“科学”を通して、僕たちに「スノーボード道しるべ」を伝え続けてくれているに違いないと思った。

 

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