コアな読者のバイブル誌トランズワールド編集長/東 達郎

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コアな読者のバイブル誌トランズワールド東達郎編集長の登場!5年前にデビューしてから常にスノーボード雑誌をリードを続ける秘訣に迫ってみた。


フサキ(以下F):この仕事に関わったいきさつを教えてください。
東(以下H):もともとはプロになりたいと思って本気でスノーボードをやっていました。山に篭もったりもしていたんですよ。

F:へえ、どちらに篭もっていたんですか?
H:北志賀ハイツです(現在のスノーボードワールドハイツ)。海外のキャンプに行ったりもしていたんですけど、年も26歳になっていて、『プロとか無理だなあ、この先、俺はどうするんだろう?』と思っていたんです。そんな時に、ここの本(トランズワールド)ができると聞いて、じゃあオレも働かせてくれ、と言ったのがきっかけです。

F:その前に編集の仕事の経験または興味とかはあったんですか?
H:編集の仕事はしていないです。だけど、親が出版社に勤めていたんで、興味はありました。編集者ってどんな仕事なんだろうって思っていたんです。一応、大学を卒業した時も就職は、出版関係しか受けていないんですよ。

F:へえ、「スノーボード」と「出版」という2つの興味あるテーマがうまく重なって今の仕事につながっているんですね。ちなみに、受けた出版社はどちらですか?
H:講談社、集英社、双葉社。

F:どこも受からなかったんすか?
H:ハイ。面接まではいったんですけど。

F:就職が厳しい時代だったのかな?
H:いや、そうじゃなくて、単に実力がなかっただけです。

F:実際、仕事してみてどうでした。スノーボードをやってきた者にとって、スノーボードの職業を始めると、ガーンとギャップとかあると思うんですよ。うわあ、滑れないのか、というような葛藤とかはなかったですか?
H:うーん、今でもたまに思うことがあります。だけど、逆に仕事をしている方が、いいところにいけるチャンスとかあったり、うまいライダーたちといっしょに滑る機会があったり、しかもその場所が海外であったりとか。そういった意味でいいチャンスにたくさん巡り合っているんです。いいこともいっぱいあったなって、思いますよ。

F:なるほど、確かにこの仕事は素晴らしいライダーたちと接することができる最高の職業かもしれませんね。今まで他の雑誌に今後の編集方針を聞いてきました。それで、スノーイングの山田さんは、これからはテーマを3つぐらいに絞ってやりたい、ということでした。スタイルの編集長の池田さんは、それこそ上の人からカッコ悪いと言われようが売れる雑誌を作る、と言っていたんですけど、トランズワールドの東さんが考える方針を教えられる範囲でお聞きしたいんですが。
H:理想になってしまうんですけど、一番大切なことは読者に贈るわけだから、読者が見ておもしろいものを作るべき。その次に僕達作り手側が考えているスノーボードを伝えること。スノーボードの楽しさや、スノーボーダー個人をフューチャーしたりとかしながら、自分で愛しているスポーツだからこそ、それを楽しそうに、またカッコよく見せたいというのがあります。あとは、メーカー寄りにならないよう、いつでもライダー寄りに雑誌を作っていきたいです。

F:うーん、納得です。やっぱりそのへんの考えが受けて、多くの読者を持てるようになったと思います。ところで、今、フリーラン誌という雑誌がありますよね。そのへんの読者とトランズワールド誌の読者層はバッティングしてくると思うんですけど、そのことに対して東さんはどう考えていますか?
H:それは、確かに重なると思うし、いい本(フリーラン誌)だと思うし、まあ、もともといっしょに働いた仲間だから、お互いが認めてみるし、どうなるかというと読者に選んでもらうしかないです。本になったら本屋に並んでしまうってことで、ライバルだと思うんですよ。だけど、そうかと言ってもあっちがああやったからこっちがこうやろうって戦略を立ててもしょうがないし、競うものでもない。僕の中では、人と競うよりも自分の本をどれだけおもしろくできるかと考える方が、健康的だと思いますよ。ライバルだとは思うけど、だからといって特に対策は立てていないです。

F:ふーむ。やっぱり人を意識せず自分が正しいことに乗っかっているってことが大切ですよね。僕もスノーボード業界でずっと食べていけたというのは、他人よりも自分がやることに集中したおかげだと思っています。ところで今後のスノーボード界はどうなっていくと予想しますか?
H:うーん、希望ですが、スノーボードをやっている人がスノーボードの商品を作ってほしいですね。スノーボードを知らない人が、スノーボードが儲かるからってやられちゃ困ります。しかもセンスのないダサいものが出回るようになったらスノーボード全体のイメージもダサくなると思います。

F:そういった流れが、今までに考えられなかった値段のボードを生んでいますよね。
H:そうですね。かと言って法律で取り締まれないし。社会から見たら、正しくも悪くもない必然の現象。だけど、そうじゃないと思うんですよ。スノーボードの本質を知っているけど、企業力がないということで対抗できない、というのは悲しいと思うんです。あと最近、雪崩事故などに見られるように、バックカントリーというのが1つの問題になっています。うちの本で「ルートガイド」(注釈:トランズワールド誌のバックカントリー向けコーナー)というコーナーをやらせてもらっているんですけど、ある人は、そんなの出したらよけい危ないんじゃないかって言うんです。実際にそうかもしれないし、僕もそのコーナーを作る前に葛藤があったんです。だけど、日本はそういったバックカントリーに関する知識、経験が海外に比べて遅れていると思うので、隠しているだけでは何も変わらないんじゃないかという見解からバックカントリーのコーナーを作りました。

F:日本では、まずゲレンデ自体が開放していないですよね。
H:まずはたくさんの人がそのような世界の存在を知って、経験しないと、文化的に発達していかないと思うんです。だから、情報をもっとオープンにして、もちろん装備やレスキューの必要性を説きながら、オープンにしていきたい、というところです。あとは、今までできていなかったかもしれませんが、ローカルの人の気持ちを大切にしないといけないので、そのあたりのバランスにも注意を配らなくてはいけないと思います。

F:たまに、日本人バカになっちゃったじゃないかって怖い時があるんです。電車の中でもモラルのない人をよくみかけるし、ウィスラーでもどう見てもバックカントリーに入ってはいけない日本人たちが何も装備なしに行ってしまう例もある。カナダ人なら、まだオレたちには早いんじゃないかって普通に自然に思って辞めるべき部分で、日本人って行ってしまう部分があるんです。そういった意味で、丁寧に情報を与えきらないと怖いなって部分も感じます。ところで、今、編集の仕事につきたい人、多いんですよ。そういう人にアドバイスあったらお願いします。
H:まず最低限、スノーボーディングできないとダメですよね。会社に編集者として入ったら、もうスノーボードは教えることはできないですからね。スノーボードの世界を深く追求してほしいです。自分で滑るなりして。その経験をウチの場合は必要としていますね。あとは伝えるということだから、本をたくさん読んで、どういう文章ならどういう状況を伝えられるのかとか、考えることも大切です。それと人とコミュニケーションが取れないとダメです。オープンでいくなりして。あとはバランス。そこらへんは個人の性格にもよると思うんですよ。いろいろなライダーとコミュニケーションがとれるバランス感覚がないと無理。あとは、コミュニケーションが取れても、礼儀がなっていなかったらライダーとかにも相手にされないと思います。要は人間同士の普段の付き合いと同じなんじゃないですかね。

F:なるほど、です。良いアドバイスありがとうございます。今後トランズワールドの編集長としての目標は?
H:そうですねえ。スノーボードの二面性を出していきたい。スポーツとしてのスノーボーディング=コンペティションなどのシーン、そして遊びとしてのスノーボーディング=フリーライディング。といった感じで。どっちかだけでなく、その両者(コンペティション・シーンとフリーライディング・シーン)を出していきたい。あとはスノーボードを本当に楽しんでいるような状況を読者の方々に伝えられるのであれば、そのページに載せさせてもらうライダーにはコンペティションの成績なんて必要ない。ある程度は、絵にならないとダメかもしれないけど。あとは海外の情報とかも必要ですよね。たまに海外の人には『なんで日本人ばっかり出してるんだ?』とか聞かれちゃうんですけどね。ここは日本、そして僕は日本人っていうことで。

F:そうですよ。だけど、そんなこと言われるんですか?あっ、そうかあトランスワールドだからだ。
H:そうですね。でも“日本”って出していきたいですよね。

F:そういうアイディンティティって大切だと思いますよ。僕、海外に住んでいるけど、そういうのなくしたら逆に相手にされないですから。
H:そうかと言っても、海外も忘れないようにしないと。エンターテーメントとして捉えたら、やっぱり海外のライダーは無視できない。できれば半分半分だしていきたい。あとはライダーと直に接触して、誰が絵になるのかとか、なるべく自分たちの目で判断していきたい。

F:今、絵になるやつって誰ですか?
H:いやあ、なかなかそれは言いにくいですね。いろんなスタイルがあると思うし、たくさんいすぎて言えません。

F:最後に東さんの夢を?
H:ないです。

F:えっ、ないんですか?逆に言ったら自分の中に強い哲学があるのかな。生き方みたいな。
H:子供がいるんで、いい子に育てたいですね。

F:うーん、さては東さん相当悪い子だったかな。まっ、本日のところはありがとうございました。
H:どうも。

インタビュー後記:
他者に意識を集中よりも自分のやることに集中する。その方が健康的であるという東さんの考えにとても共感を覚えた。しっかりと未来を見据えたトランズワールド誌は、これからも僕たちにスノーボードのおもしろさやカッコ良さを見せてくれると確信した。

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