考えるハウツー

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現在、 GSSキャンプで3人のキャンパーのコーチングをしている。GSSキャンプというのは、以前、ウィスラーで自分と同じ釜の飯を食べたアキラさん(松里氏)が行っているキャンプで、日本では峰の原を拠点に活動、また海外ではニュージーランドのキャンプを行っている。主にワールドカップに出場しているレーサーを育てるところとして有名だ。 (以下、GSSキャンプのwebサイト http://www.matsuzato.com/

通常キャンプというと、もっと大人数で行うものだけど、今回は3名ということでじっくりとスノーボードの上達方法というのを伝授することにした。彼らにハウツーを考える力をつけてもらいたい、という趣向で行ったのである。

自分はキャンプとか雑誌などのハウツーで、よく「こうした方がいいよ」というアドバイスを送るのだが、それに加えて「カービングするためにはどうしたらいい?」とか質問したり、雑誌のハウツーでは「カービングするためにはこういった姿勢を作り、その理由はこうだから」というような言い方をすることも多い。
その一方で世の中のハウツーやキャンプには、単に「こうしよう!」という一方通行的なハウツーが多いように思える。

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みんなは考えたことがないのだろうか? なぜ「こうしなくちゃいけないの?」と。
プロが言っているから正しいに決まっている。うまい人の言うことだから、言うこと聞けば上達できる。そのように考えているのだろうか。

例えば今回のキャンプでは、こんな質問をした。
「それぞれの思う基本姿勢をやってください。」
3人のキャンパーがそれぞれの意識で基本姿勢を作る。
「 ○○さん、この基本姿勢のポイントは何ですか?」
と質問する。
「ヒザを曲げて、目線は滑る方向。上半身は進行方向に向けます。」
と3つから5つのポイントをあげてくれた。

「それでは、こうしなくちゃいけない理由は?」
とそのポイントの意図も質問してみる。

しかし、ポイントを3つから5つほどあげてくれたキャンパーたちが、その意図まで考慮して回答できたのは、1つから3つ以内だった。そして、その認識はそれぞれで違っていた。

例えばあるキャンパーは前足により体重を乗せる、という言うし、あるキャンパーは真ん中に乗せるという言う。またあるキャンパーは上半身は進行方向に向けるという言うし、あるキャンパーは自然に真横に構える、と答える。

さらに意地悪をして(?)
「じゃあ、そもそも基本姿勢って何で必要で、どんな意味があるのか? どんな定義があるのか?」と質問してみた。

3人でいろいろ討論したあげく、最終的には「中間姿勢で、運動がしやすい姿勢」というような答えが出て来た。
「なるほど、基本姿勢というのは、そもそも運動を効率的に行いやすい姿勢かあ」
ということで、これはコーチを含めた自分も一致した考えだった。

だけど、今回のコミュニケーションを通じて思ったのは、みんなただ今まで教わったコーチのアドバイスや雑誌のハウツーで「こうしなくてはいけない」と教わったから、そうしたに過ぎないということ。そのハウツーには自分の深い考えや、そのアドバイスに関する疑問、さらにはそのアドバイスの結果、どのように滑りが変わったか、という実験も乏しいということ。

1つ具体的な例をあげて説明しよう。
「上半身を前に向ける」その結果、滑りにどのように変化をもたらすのか。

進行方向に向かって、両手が左右に広げられるので、バランスがとりやすくなる。
しかし、その一方で上半身と下半身が捻られた姿勢は、立ち上がった時に捻り戻り運動が起こってしまう、という症状に陥る。
例えば、キッカーのアプローチで低い姿勢を保ち、上半身を前に向けた姿勢を作ってみよう。そのまま踏み切れば、上半身の開きに導かれた下半身も正面を向こうとしてしまう。その結果、レギュラー・スタンスの場合、立ち上がったとたんにボードの先が逆時計回りの方向に回ってしまう、という症状になる。

フリーランでパウダーを滑るぐらいなら支障もないし、初心者でターンを覚える時にバランスを取るぐらいならOKだと思うが、フリースタイルでは致命的なミス姿勢だと思う。だから、自分の場合には最初から基本姿勢はスタンスに忠実に構える姿勢を教えることにしている。

雑誌やハウツー・ビデオを見ていて不思議なのは、あるプロ・スノーボーダーが「基本姿勢は上半身を前に向けるんだよ」と言いながら、実際に飛んでトリックする場面では、しっかりと(?)ナチュラルにスタンスに対して忠実な形で横を向いていること。「全然、上半身が前向いてないよ!」と思わず突っ込みたくなってしまう。

人間が言うことだから、正しいとは言い切れない。だけど、自分はスノーボーダーたちが、どのようにすれば上達できるのか、ということをよく考える。そして、今、自分で考えたこともいつかは違う考えになることも否定できない。ある種、ハウツーというのは進化するようなもので、その時の考えが不変であるとは限らないのだ。だから、謙虚にならざる得ないのだ。 常に考えて最適な答えを導き出す努力をするのだ。

スノーボード雑誌のハウツーを見て、あるプロ・スノーボーダーが「こうした方がいいよ」と言う。同じ考えという時もあるし、180度違う意見を持つこともある。その時には、なぜ ○○プロはこのようなアドバイスを言うのか、ということも考える。そうして、以前、出会った感覚が今回一例に出した基本姿勢の話なのだ。

自分は以前、「上半身を前に向ける」とアドバイスを送るイントラやライダーたちに頭ごなしに「間違っている」と思った。しかし、今ではその間違っていると思ったことでも、どんな有効手段が潜んでいるのか、と考えるようになった。そして、そのアドバイスの背景も探ることで、新しいスタイルのキャンプ、今回のような「考えるハウツー」を提案できるものができるようになった。そして、この考える力は、スノーボーダーの上達にとって不可欠である、と思うようになった。

だから提案したい。これから、みんなが参加するキャンプで素直に聞いてみてほしい。
「コーチ、なぜそうしなくちゃいけないのですか?」
また、スノーボード雑誌のハウツーを読む時に「このアドバイスの理由は?」ということも考えてみるといいだろう。こうした「考えるハウツー」の習慣をつけることで、上達する力が磨かれるし、本物も見極められるようになって来ると思う。
やたらに難しい言葉を並べる人、きちんと理由を伝えない人、そういう人のアドバイスは疑った方がいいかもね。

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