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文:飯田房貴 [email protected]

ウィスラーのゲレンデに行くと、日本とは大きな違いに誰もが気づくハズです。
それは、ほとんどのスキーヤー、スノーボーダーがヘルメットをかぶっているということです。

そもそもカナダでも、以前はヘルメットをかぶっている姿はあまり見かけませんでした。
僕がウィスラーに最初に訪れたのは、1990年。その頃はヘルメットをしているというのはレーサーとかアルペン競技をしている人だけ。

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急速にヘルメットの需要が高まったのは、確か1990年後半だったと思います。
その頃、有名人のスキー場での死亡事故がいくつか発生しています。

一つの大きなきっかけとなったのは、1997年のコロラド・アスペンで、ケネディ一家のマイケル・ルモアーヌ・ケネディさんのスキー中の死亡事故でしょう。当時、「もしヘルメットをしていたら?助かっただろう。」という議論が、アメリカ、そしてカナダでも高まりました。

有名人のスキー事故はこの後も続きますが、とりわけ2013年、フランスでのF1レーサーのミハイル・シャーマッハのスキー事故は、多くの方に知られています。シューマッハは岩に頭部を強打しました。あの時、ヘルメットしていたからこそ、命を取り留めたと言われました。(以下参考ページ)
ウィキペディア(ミハエル・シューマッハ スキー事故)

カナダでは、もうずっと前から、子供がスキー場でヘルメットをしないことを禁止にしています。
もしも、子供がスキー場でヘルメットをしていなかったら、親が罰則を受けるのです。

またウィスラーでは、2007年ぐらいから全従業員にヘルメットの義務化が始まりました。
山で働く従業員自ら、ヘルメットをかぶり、その必要性をウィスラーに来る全世界のスキーヤー、スノーボーダーに伝えようということになったのです。

ウィスラーに来るお客さんは、カナダ国内だけでなく、アメリカ、さらにはヨーロッパ、アジアにも広がっています。
その多くの顧客は、スノー事情に敏感なスマート層で、多くの方がヘルメットをかぶっています。そう、彼らはヘルメットの重要性を十分に認識しているのです。

近年、日本に来る外国人の多くがヘルメットをかぶっていることに気づいた方も多いと思いますが、彼らはしっかりとヘルメットの必要性を理解しているのでしょう。

カナダ人がヘルメットをかぶる理由

なぜこれほどまでに多くのカナダ人スノーボーダーたちが、ヘルメットをかぶっているのでしょうか?

当然、そこには安全だからということがありますが、そもそもスノーボードの危険性というのは、どれほどのものでしょうか?

1つの目安となるのが、スピードです。

通常、スノーボーダーは中級者レベルで60キロ以上は出しています。
例えば、今、あなたがゲレンデに行って、スピードを出して気持ち良く滑っているなあ、という感じが60キロ出している状況です。
信じられらないかもしれませんが、測ればわかります。

以前、SandboxヘルメットのライダーだったDANは、自分の滑っているスピードを測ったところ、106キロを出しました。
これは、スピードを出そうと練習して出た数値ですが、多くの上級者のスノーボーダーもかなり速い数値を出すことが可能です。

実際、僕も数年前、DMKクラブ員の中でも上級者に入るMくんといっしょに滑って計測したところ、80キロを記録しました。
ブラッコムの中間よりも下で、空いていたところでかっ飛ばしこの数値を出したのです。

その時、「ああ、普段から僕は高速道路で走るようなスピードでスノーボーディングをしているんだなあ」と驚いたものです。あれ以来、高速で車を80キロ出すたびに、このスピードでスノーボードしているのかあ、と考えるようになりました。

スノーボーダーの出せるスピードに関してさらに知りたくて、ライダーのDANに尋ねたところ、通常の速いフリーランで60キロから80キロ出せたそうです。それは彼にとって気持ち良いスピードでライディングしていた数値でした。
だから、DANが言ったのは、「これで、コケたら普通に交通事故ですね」と。

確かに(笑)。

笑いごとでは済まされないけど、実際、日本のゲレンデでそういうことは多発しています。
つまり、多くのスノーボーダーは高速で滑っているのに、ヘルメットをかぶっていないということ。その結果、人生にとって致命的な怪我、最悪のケースでは死亡事故が起こっています。

もちろんコンクリートと、雪は違います。だから、単純にスピードだけで比較できるものではありません。

だけど、高速になるほど、転倒時の衝撃は大きくなるし、特に斜度が平らに近いところではその衝撃も強烈になって来ます。斜度がある方が、衝撃を逃がすので意外に斜度がある場所の方が怪我を防ぐものです。

だから、初心者スノーボーダーの死亡事故は、迂回コースのようなところで起きているのです。そして、多くの死亡事故は、スノーボードが持つ危険への認識の甘さから来るもの。

ヘルメットをすることは本当にダサいこと?むしろカッコいい!

ヘルメットをしていることは、ダサいと思う人もいるでしょう。
それは結構。きっとリスクを踏まえた上で、ヘルメットをしないのだから。

だけど、自分にとって大切な恋人、家族、子供、そんな人には、しっかりとスノーボードの転倒リスクの事実を伝えて、安全にスノーボーディングをしてほしいと思いませんか?

残念ながら、これまで起きたスノーボードの死亡事故もヘルメットをしていれば防げたことが事例があリました。
ヘルメットは、転倒時の衝撃だけでなく、例えばスキーヤーとの衝突の際、スキー板が頭部に当たるようなケースでも守ってくれます。

そういったことをしっかりと理解しているからこそ、カナダ人は子供へのヘルメットを義務化したし、多くのカナディアンはヘルメットをかぶっているのです。

バイクで走っている時にヘルメットをしているのと同じような感覚。
そこにダサいとか言う観点はなく、ようは死にたくないからしているだけのこと。

残念ながら、日本人の多くはそのことをあまり認識していません。
いずれ、そのことに誰もが気づくのだろうけど、死んでからでは遅い。

生きていることは、ダサいことよりも素晴らしいことなのだから。これからの人生、まだまだずっとスノーボードをしたいですよね?だからこそ、安全対策を!
そもそもヘルメットは、むしろ!「ヘルメットをしている方がカッコいい!」ということに進化しています。
近年、スノーボードのヘルメットは、ダサいという認識からカッコいいというイメージに高まっています。

スノーボードの歴史を振り返ってみて、最初にヘルメットの重要性をスノーボード界に伝えたのは、自身頭部の怪我で一時引退までしたプロ・スノーボーダー、クリス・ダフィシーでしょう。彼はヘルメットをかぶって、当時最も世界的に人気が高ったスノーボード・ビデオに出演しましたが、そこにヘルメットがダサいという話はほぼ出ませんでした。多くのスノーボーダーは、彼の復活する生きざまに、リスペクトしました。

また、ウィスラー生まれのSandboxヘルメットは、オシャレなツバ付きヘルメットをリリースし、これまでのスキーヤー的な概念のドテっとしたイメージのものから軽快でクールなものに仕上げて成功しました。カナダでは最も多くのスノーボーダーたちに愛されているヘルメットです。

ヘルメットしたからと言って、完全に頭部の怪我を防げるわけではありません。
しかし、ヘルメットをすることで、大きな怪我を守る可能性を高めてくれます。

都会の生活から突然、雪山に行けば、体調の変化などで思うように身体が動かずに転倒することだってあるでしょう。そんな時、あなたの大切な頭部を守ってくれるのがヘルメットです。大きな悲惨な事故を起こす前に、ヘルメットをかぶりましょう。

きっと日本もいつか欧米諸国のように、多くのスキーヤー、スノーボーダーがヘルメットの大切さを認識し、多くの方がかぶるようになるでしょう。
今ちょうど、そのことに気づき始めた頃だと思います。

※こちらのコラムは最初に2016年11月にリリースしましたが、新たに2020年11月に修正して更新しました。


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スノーボードのヘルメット選び方「6つの要素」と2022-23おすすめ10選
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コラムニスト・飯田房貴
1968年生まれ。東京都出身、カナダ・ウィスラー在住。
シーズン中は、ウィスラーでスノーボードのインストラクターをし、年間を通して『DMKsnowboard.com』の運営、Westbeach、Sandbox、Endeavor Snowboards等の海外ブランドの代理店業務を行っている。日本で最大規模となるスノーボードクラブ、『DMK CLUB』の発起人。所属は、株式会社フィールドゲート(本社・東京千代田区)。
90年代の専門誌全盛期時代には、年間100ページ・ペースでライター、写真撮影に携わりコンテンツを製作。幅広いスノーボード業務と知識を活かして、これまでにも多くのスノーボード関連コラムを執筆。主な執筆書に『スノーボード入門 スノーボード歴35年 1万2000人以上の初心者をレッスンしてきたカリスマ・イントラの最新SB技術書 』『スノーボードがうまくなる!20の考え方 FOR THE LOVE OF SNOWBOARDING』がある。
今でもシーズンを通して、100日以上山に上がり、スノーボード歴は37年。
スノーボード情報を伝える専門家として、2022年2月19日放送のTBSテレビの『新・情報7daysニュースキャスター』特集に、また2022年3月13日に公開された講談社FRIDAY日本が「スノーボードの強豪」になった意外な理由にも登場。

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