【コラム】アウトドラブランドの新戦略

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文:齋藤 稔

THE NORTH FACE (以下、TNF)と言えばもともとは山関係に強いリアル・アウトドア・ブランドとして有名なのはみなさんご存じのことだろう。このTNFが最近変わってきている。

数年前に日本スノーボード界のレジェンド竹内正則との契約を行い本格的にスノーボード業界に参入して話題となったが、それもリアル・アウトドア・ブランドとしての機能性が一番の「ウリ」だった。しかし、先シーズン末にグラフィックアーティストとのコラボレーションで限定のジャケットを発売しファッション関係で話題となったのだ。

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そして今期、 TNFはさらにアーティストとのコラボレーションを進め、これまでアウトドアに関心のなかった人にもTNFを知ってもらい新たな顧客を作ろうとしている。実際にTNF直営店の店頭ではフジロック(注:日本最大級のロックフェスティバル)などの音楽野外フェスティバルに関するディスプレイが目立つ。これは野外で行われる超大型の参加型音楽イベントで参加者の多くが天候が悪くとも参加し、宿泊はテントで自炊というスタイルを取っているため。ここにリアル・アウトドアとの接点を見つけ出したようだ。無料で配られている小冊子を見てみるとアウトドアと言うよりはファッションと音楽の小冊子のようで、確かに新しい顧客の開拓を狙っているのがよくわかる。デザインはファッションを意識し、機能はリアル。まさに新しいアウトドアのマーケットと呼べるだろう。

この路線の先には今期のスノーボードウェアももちろん位置づけられている。ハイエンドの高機能ウェアの路線はそのままに、エントリーからミドルクラスのラインナップでは機能性はそのままでもカラーリングなどがこれまでの TNF にはない斬新なカラーリングになっている。 TNF の新戦略、それはリアルアウトドアの機能とアーティストの感性の融合。

もちろん従来からの戦略で確実にシェアを伸ばしているブランドも当然のことながら存在する。北欧スェーデン生まれのHAGLOFSなどはその代表だろう。このHAGLOFSというブランド、日本での積極的なプロモーションはごく最近のこと。数年前までは知る人ぞ知るという程度の認知度。だがここに来て本物を探しているユーザーからの支持を得て、確実にシェアを伸ばしてきている。その製品の完成度はひじょうに高く、比較的高い価格設定にもかかわらず徐々に勢力を拡げている。実際にガイドなどアウトドアでの活動のプロフェッショナルからの評価はとても高いのだ。アメリカとヨーロッパのアウトドアシーンの違いからだろう、多くのアメリカン・アウトドアブランドと違いごくごくシンプルで機能性に優れた製品。厳選された商品群で、まさに違いのわかる大人向けという感じのブランドイメージは今後もジワジワと浸透していくだろう。サポートを受けているライダーもアウトドアガイドや山岳ガイドなどで、現在メインのシーンであるフリースタイラーではなく、スノーボードをライフスタイルとしている大人をターゲットとしているところが戦略の巧さ。また、これから増えて行くであろう 30代、40代のスノーボーダー&スキーヤー・アウトドア愛好家の人口比率を考えると、かなり先を見越した戦略と取ることもできる。

スノーボードという点から見れば一躍メインシーンに躍り出たのは Columbia だろう。千村格を筆頭とする SBX トップレーサー、田村弥生、中島志保などハーフパイプのトップも同じくサポート。あきらかにトリノ五輪での宣伝効果を狙ったチーム編成が行われている。このサポートライダーからのフィードバックを元に日本のシーンに合わせた limited モデルを発売し、アウトドアブランドと言うよりもウェアブランドとして知っている人も少なくないかもしれない。アウトドアブランドとしての高機能性はもちろんのこと、 Columbia 独自の技術を使った同程度の機能の商品よりも割安な価格設定も人気の秘密だろう。日本のスポーツ用品の売り上げの中でもかなりの割合を占めるスノーボード用品に目をつけ、そこから普段着るTシャツやパンツなどに若いユーザーを引きつける作戦は、現在のところ、確実に成功しているようだ。実際にゲレンデでも Columbiaのウェアをよく見るようになっている。アメリカンブランドでも大手である Columbia はファーストレイヤーからアウター、アフタースノーボードまでトータルでラインナップされており、今後も若いスノーボーダーを中心に浸透していくことだろう。

各ブランドともシェア争いは熾烈だが、確実に言えるのはスノーボードウェアという市場の中でアウトドアブランドが台頭してきていること。現在のウェア市場では BURTON 、クイックシルバーに代表される海外大手ブランドと固定ファンをつかんでいるドメスティックブランド、そして第3勢力のアウトドアブランドと見ることができるだろう。

今期ウェアを買おうと思っている人はこういったアウトドアブランドをチェックしてみてはいかがだろうか。

注: 記事中の各ブランドの戦略は日本での戦略です。 TNF は日本では(株)ゴールドウィンがライセンスを持っています。

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