ゴールデン・ウィーク「dmkウィスラーツアー」

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今年で第3回目を迎えるdmkクラブのウィスラー・ツアー。昨年は快晴に恵まれ春のウィスラーを満喫したが、今年は昨年を上回る天候に迎えられた。なんとこの時期としては、ミラクルとも言えるスーパー・パウダーに当たったのだ。
80年代後半バブルを経験した遊び好きのおじさん、おばさん(失礼→)お姉さんたちは、スノーボード以外にもたっぷりと遊んだぞ!(注:ツアーには若者もいましたが、主に30代の方が多かったのです)


レポーター:dmk専属ライター・モリッペ

いざ、ウィスラーへ

海外脱出組。マスコミが生み出したこのなんとなくバカっぽい言葉に乗るのは誰だって嫌だと思うが、事実、大型連休を利用して海外旅行へ出かけることが世間からは“脱出”に見えるのだとしたら、こちらの意思とは関係なくあきらめるしかないであろう。

チェックインを済ませるまで、どこへ行ってもキャリアカート同士がぶつかりそうな成田空港を後にしてバンクーバー空港のゲートを抜けた。うーん!空気が澄んで気持ちいい!と言いたいところだが…、今年はバンクーバー空港も入国審査で長蛇の列。この空港でこんなに並んだのは数回の訪問の内でも初めてのことだ。スペースマウンテンに乗るかのようなうねうねの行列がようやく終わる時、我慢の限界を迎えた私たちは入国審査だというのに10名でいっしょに窓口に乗り込んだ。さすがにちょっと怒って、呆れ顔の審査官はそれでも日本語で質問をしてくれ、ようやくバゲッジ・レーンを何周したのかわからない自分の荷物をピックアップして、明るい光がまぶしい屋外へとドアをくぐった。 

空港の濃い緑色のドアを押し開けると、シャッキと冷たい空気の中で新緑がキラキラ揺れている。いつも思うことだがこの時に感じる光のまぶしさは本当に格別だ。言い換えるのなら光の透明度が違うということか。日本よりも確実に明度が高いのだ。これが単に緯度の高さのせいなのか、湿度の低さのせいであるのかはわからないが、冷たい空気と明るい光の歓迎が、狭い機内に長く閉じ込められた身体にとっては格別にうれしいご褒美だ。 

ミニバスに乗って空港からウィスラーへGO!

さっそく、迎えに来ていたミニ・バスに荷物を積み込み、ウィスラーへと出発した。去年はほとんど散っていた八重桜が、今年は今が満開だ。しかし日本に比べて花弁が大きい。桜は意外と知られていないが実はバラ科だ。日本で見る桜にその印象はないが、これだけデカくてたわわだと「うん。たしかにバラと親戚かも…」と思える。国土がでかいということは、もしかして植物にまで影響するのだろうか? 

ウィスラーまでの道すがらは、車窓に見える景色もなかなか見事なものだ。郊外のよく手入れの行き届いたかわいい家。そして繁華街、ビジネス街に伸びる骨っぽい高層ビル。それらを抜けるとスタンレイ・パークに代表される広い緑地帯と穏やかな入り江にかかるシンプルで美しいライオンズゲートブリッジを渡ることになる。ハイウェイに乗るとまた少し景色が変わる。入り江を見下ろす小高い丘はバンクーバーのアップタウンで、木立の間に高級住宅たちがあっさりと澄ました顔をして佇んでいる。以前からここを通って見下ろすたびに、住んだら景色のいい場所だろうとうらやましく思っていたが、まさに超高級住宅街だったとは知らなかった。なるほど、どおりで素敵な訳だ。カナダ出身の歌手ブライアン・アダムス(アメリカ人だと思われがちだが実はカナダ出身だそうだ)もここに家を持っているということだ。

そして、このあたりから車窓にはフィヨルドの景色が広がり始める。部長のアヤちゃんがフィヨルドの説明をしてくれ、それに補足説明を求められたが、いまいちみんなの理解をもらえなかったので改めて調べてみた。スカンジナビア政府観光局のホームページによると「約100万年前に形成された2000~3000mもの厚さの氷河が、約1万年前に溶け出し、海側に移動するさい、その重さで谷底がU字型に削りとられ、その後に海水が入り込んで現在のようなフィヨルドが形成されたと考えられています。」とのこと。 

この後もきれいな景色がたくさん続くのだが、睡眠不足の身体にはこのあたりで大概限界が来る。途中トイレ休憩のスコーミッシュまですっかり眠りに落ちてしまうのであった。 

今年もお世話になる宿はウィスラー・ビレッジ・イン&スイーツ。もうすっかり勝手のわかっているホテルのロビーでフサキさん、そしてウィスラーに長期滞在中の都所親子と4時に待ち合わせた。いつもとっても嬉しいのはこのロビーには無料のコーヒー&紅茶のサービスがあること。いつでも気軽に飲むことができる。こういう余裕と呼べる部分を日本のリゾートでも真似してくれたらいいのだがと思う。これだけのことでずいぶんとリラックスした滞在が楽しめるのに。今の日本でそれに当たるものを考えてみると、大浴場の麦茶が、それにあたるのか…。 

約束の4時までにはホテルのロビーにはフサキさんと都所親子、それに去年からワーキングホリデーでウィスラーに滞在中のdmkスタッフ、ケイくんが現れた。都所親子といわれるとなんかピンと来ないかもしれないが、キャンプ常連さんの間ではすっかり有名なコーキとミユ姉のことだ。コーキは今年中学を卒業。今期からこちらの学校に通うことになっている。久しぶりに会ったら少し背が伸びていた。上に伸びてしまうせいか、もともと細い身体がさらに痩せたという。 

早速ホテルを出てウィスラー・ビレッジを紹介がてら軽く散策。海外旅行は初体験というゆうじろうさんがていねいにビデオで撮影している。ゆうじろうさんは奥さんと2人の娘さんのパパ。ゴールデンウィークに家族を置いて一人海外へ来てしまった罪ほろぼしに、ビデオと写真だけはしっかり撮ってくると約束して来たらしい。

ビレッジの中心部から北部に向かって歩いていると、向こうからやってきた女の子の2人連れにフサキさんが声をかけている。なんだかやたらとフレンドリーだ。知り合いなんだなと思い遠巻きに見ていると「ユキエちゃんだよ」と誰かが言う。なに?ユキエちゃん?この業界において“ユキエちゃん”と言えばその名は超有名だ。そう、その人はあの上田ユキエちゃん。私は生のユキエちゃんに会うのはもちろん初めて。とても小柄なのだろうと思っていたけれど、思っていたよりも背が高い。「え?え?あのユキエちゃん!?」にわかに波紋の広がる私たちの団体にユキエちゃんはにっこりと会釈してくれた。「うわぁ、ほんものだぁ」。私たちは性懲りもなく写真撮影をお願いし、いっしょに写ってもらったのだった。 

 明日乗るブラッコムへ行くゴンドラ前で記念撮影。

 あっ、ユキエちゃんだ。記念撮影よろしくお願いします!

その後ノース・ビレッジを散策中にフサキさんはまたもや、今度は4~5人の女の子の集団に声をかけている。「え?なに?今度は誰だろう?」みんなの視線が集中する。だがフサキさんはそんなことには一向にお構いなし。「じゃあ後でまた連絡するから!」とか言って彼女たちとフランクに別れてきた。そして待っていた私たちに一言。「今のあの真ん中にいた子。山岡聡子(やまおかそうこ)ちゃんだよ」とこともなげにサラリと言う。なにー!山岡聡子ちゃんていえばオリンピック代表じゃないか!「え?どれ?どの人!?」遠ざかっていく集団を慌てて振り返る。「ウェアー脱いじゃうとわからないなぁー」「ウェアー着てたら、ゴーグルでもっとわからないでしょ!」と次々と遭遇するビッグネームにみんななんだかわけがわからなくなっている。「いやぁ、フサキさんて、凄い人なんだねー…。あ、ていうか凄い人なのか」「そうだよ。そばにいると忘れがちだけどフサキさんだってそういう意味では十分凄い人なんだから」って、なんかあまり褒めていないけど、われらがフサキさんの凄さを再認識したみんなだった。 

そして散策後は今年も定番のウェルカム・パーティーが用意されている。おなじみのブリュー・ハウスでサラダ、ピザ、チキン、そしてビールのもてなしだが、今年はメンバーのパワーが違う。なぜかって実は今回のウィスラー・キャンプの参加者は男性ばかり。ミユ姉、そしてスタッフのアヤと私という、わずかに3名が女性参加者という構成なのだ。だから食事も消費量が違う。去年は残りがちだったピザなどもきれいに平らげられた。パーティーにはdmkウィスラーメンバーとしてはすっかり顔となった大原拓実(タクミ)くん&平野創(ハジメ)くんの2人も参加してくれた。タクミくんは今年日本のキャンプでもちょくちょくいっしょにいたけれど、ハジメくんとは本当に一年ぶりで、ニカッと笑う彼の笑顔がとても懐かしい。今シーズンはファッションにさらに磨きをかけているようで、なかなかオシャレな格好をしている。少し離れたテーブルにはフサキさんのファミリーも来ていて、息子の大河くんとクレアちゃんがこちらのテーブルに乱入してきて、男ばかりのテーブルにかわいい花を添えてくれた。大河くんは5歳。赤ちゃんの頃から知っているが、最近は顔立ちがずいぶんとしっかりしてきて、男の子らしくなってきた。柔らかいブラウンの髪と、やはりブラウンの瞳に長いまつげの二重瞼といった甘い顔立ちに、モテモテの将来が約束されていると感じる。妹のクレアちゃんも3歳になって、今年はだいぶコミュニケーションも取れるようになってきた。お兄ちゃんと同じように柔らかい茶色い髪がクルクルと巻き毛になっていて、ウィスラーにこもっている日本人の若者ローカルの心を虜にするという、魅惑のかわいらしさは健在だ。クレアちゃんもあと15年もすれば18歳。今からの人気を考えると末恐ろしい兄妹なのであった。

 海外気分を満喫できるブリューハウスで楽しい夕食。

 夜景もきれいなウィスラー、明日晴れそうだ。

キャンプ初日

昨夜はパーティーの後さらに飲みに行った連中もいるが、疲れもあって一晩ゆっくり眠った翌朝。天気はこれ以上ないってほどの晴天だった。ふもとのゴンドラ乗り場に朝9時に集合した。ウィスラーといつも一口に言ってしまうが、実はこの土地には2つの山が並んでいる。いわゆる“ウィスラー”と呼ばれる山と“ブラッコム”と呼ばれる山だ。どちらもとても大きな山だが、冬の間この2つの山は、どちらでも好きなほうを滑ることができる。ゴンドラ乗り場も隣り合っているし、それぞれ特徴の違う山なので、どちらを滑っても本当にとても楽しいのだが、5月のこの時期になるといつもはブラッコムのほうだけ閉めてしまう。そして7月頃にまた開くのだ。ブラッコムは上部の方に氷河を持っていてそのボウルのあたりの雪は一年中消えない。そこを使ってサマーキャンプを行うので5月のような中途半端な時期は山をお休みさせているのだ。

ところが、だ。今年開いているのはブラッコムなのだ。なぜかというともちろん理由がある。今ウィスラーにはウィスラーとブラッコムの山頂をゴンドラでつなぐ計画があるのだ。この計画、ゴンドラの長さが世界最長である以外にもびっくりするような仕組みでいろいろな物議を醸し出しているのだが(詳しいことはこちらのページで)この工事をまずはウィスラー側で開始したということで、山はお休みなのだ。だが、もちろん、というかこの時期にはウィスラーしか滑れないと決まっている、言い方を変えれば禁断のブラッコムを滑れると聞いて嬉しくないわけがない。ブラッコムの名所セブンス・ヘブンを滑るのは、個人的にはもう7年ぶりになる。 

ワクワクしながらゴンドラに乗り込もうとしたその時、今日のゲストが現れた。昨夜のパーティーにも顔を出してくれたハジメくんだ。この山のゴンドラは、ウィスラー側、ブラッコム側のどちらとも、山の途中でミッド・ステーション(中間駅)を通るが、その際に一度ドアが開く。ハジメくんはその隙を狙って後ろのゴンドラから私たちのゴンドラに乗り換えてきた。真っ白なロングスリーブのTシャツの上から黒地に赤・青のチェック柄のnomisのスリーブレスを重ねている。ボトムは白いパンツ。そして首にも白いスカーフを巻いていて、とにかくカワイイ。そのセンスを褒めると「カワイイのがいいんですよ」という答えが返ってきた。今年の彼は“カワイイ”がキーワードのようだ。 

手前、笑顔でストレッチングするdmk部長アヤちゃん。

今年日本では雪が少なく、私の滑走日数はいつもの年の半分以下ほどだった。逸る心を抑えるようにゆっくりとストレッチして、心と体のバランスを整えた。ケガを防ぐ意味でもストレッチは重要だ。まだ始まったばかりのウィスラー・キャンプ。大事にしなければならない。ジブの王者ハジメくんのアドバイスで準備運動としてパタパタ運動を行う。パタパタ運動とは板を履いたままペンギンのように板をパタパタ動かして前後に移動する運動だ。あっという間に身体が温まる…というか息が上がるといったほうが正しいか。だがそれを「もはや身体も温ったまらねぇ」とサラッと呟くハジメくん。むむ…その台詞!私もサラッと吐いてみたい。ともかく十分身体が温まったところでおもむろにリフトに乗車。ウィスラー・ブラッコムのリフトは1本がとても長い。だが速度が高速なので、ストレスはほとんど感じない。上部への連絡のために乗った2本目のリフトで一緒に乗ったゆうじろうさんが、「これで終わりじゃないんですか?」と感嘆の声を上げている。そう、普通では考えられない長いリフト2本。でもこれで終わりではだめなのだ。だって、下世話なことを言うのも何だけど、何のために大金をはたいてここまできているかって考えればね。でもそのことは滑り出せばきっと分かると思い、あえて「そうですねぇー」などとのんびりと答えた。 

まだ朝が早く雪が硬い。日陰の部分は特にだ。久しぶりにソールに感じるカリカリと硬い雪に自然と体が強張る。広いゲレンデでスピードの感覚を失いがちだが、みんなかなりのスピードで滑っていく。きれいにグルーミングされたバーンは気持ちがいいのだが、うーん、なんか上半身と下半身がうまく噛み合わない。軽い違和感を覚えながら数本を滑っていたが、強い日差しのせいで雪面もすぐに緩んできた。 

「それじゃ、そろそろ7番目の天国に行きますか!」とフサキさんが言った。ブラッコムの名所セブンス・ヘブン!ここに新雪が積もったとき、7番目の天国はこの世で最高の天国になる。だがたとえ新雪がなくても大きく広いこのバーンの人気は高い。明るく開けた斜面はとにかく気分よく滑ることができるのだ。しかも今日はこれ以上ないほどの晴天だ。ピークへ上がると周囲の山々が遠くのほうまでくっきりと稜線を現し、壮大なパノラマを見せてくれていた。その中でも目を引くのがブラック・タスクと呼ばれている岩山。昨年のキャンプでもウィスラー側からその姿をくっきりと見ることができ、記念撮影もしている。白い雪山の中に垂直にそそり立つ黒い岩肌が目立つため、ウィスラーで見られる景色の中ではひとつのポイントとなっている。早速ブラック・タスクをバックに記念撮影をすることにした。あーだこーだと言いながら撮り始め、結局、希望者から預かったカメラが7~8台。それらに一枚ずつポーズを取って、なんだか大掛かりな記念撮影となった。

それからお昼のために少しずつ山を下り始める。途中の斜面で「スノーボード雑誌の表紙になるような写真を撮ろう!」と、なんか無茶なテーマが出された。「こういう時に転ぶと、フサキさんの雑誌でいい材料にされちゃうんだよねー」と口々に言いつつそれでも、みんな結構かっこよく滑り降りていく。そして最後から2番目にアヤちゃん。勝負どころで強い彼女はきっとかっこよく決めてくるだろうと誰もが思ったその瞬間。前転…。しかも2回転?ゴーグルも吹っ飛ばす勢いでふっ飛んだ。「わー!大丈夫ー??」と叫ぶみんなに笑いながら「自分でもどうなったのか分かんな~い」と髪をなびかせて降りてくる。それを見ていたハジメくんが「さすがおいしいところを持っていくよなー。職人だよなー。おまけに顔全開で「私を見てー」って感じだよなー」と仕切りと変な感心の仕方をしている。でもまぁ、ともかくケガがなくてよかった。 

今回ウィスラーを案内してくれたフサキさんと、一人ひとりで記念撮影。 dmkクラブの若手ホープのコーキくんが、プロ級のカービングを決めた。

続いてはハジメくんの「日本のゲレンデでやったら、たぶん怒られる遊びをやってみよう!」コーナー。日本のゲレンデでやったらたぶん怒られる…って、相変わらずだねぇ。見ているとコースの境界線に立っている標のポールに順々に板を当て込みながら滑っていく。ああ、たしかに日本で見つかったらちょっぴり注意は受けるかもね…ってそれはここでも一緒でしょ!?とにかくみんなで真似してみたが、そんなに簡単に当て込むことはできず、結局怒られるにいたらずといった感じで、一抹の情けなさを残しつつ、このまま午前の部も終了となった。 

昼食後は天気の良さに任せて、ちょっとハイクアップをしてみた。少し硬めだったが非圧雪バーンをくだり、そのままセブンス・ヘブンの斜面に流れ込む。広い斜面に開放感を覚え、大きなカービング・ターンをしながらのロングランがとても気持ちいい。 

みんなまだ滑り足りないような顔をしていたが、まだ初日ということもありあまり無理をしないように、3時半には上がった。 

今日はこの後散歩やプールなど、それぞれが日差しが長い春ならではのアクティビティーを楽しむことになっている。私はプールに行くことにした。プールに行くにはビレッジの端から出ているバスに乗って行かなければならない。公共の乗り物、特にバスに乗るのは、どこを旅行していてもなんだかちょっとした冒険気分になる。その土地の生活の匂いを感じる生の部分に、一歩踏み込んだ気がするからだ。 

散歩コースではフサキさんが案内人となり、地元の巨大スケート・パークに行ったり、 ローカルでしか知らないような山道に入り熊の爪痕などを見た。

ウィスラーのバスは日本のようにていねいなアナウンスなどないらしい。「だから場所を覚えていないと自分の降りたいところで降りられないんですよ」と聞いて、心配顔の私たちをケイくんが案内してくれた。運転手はインド人やイラク人、中国人などが多いという。前払いでの乗車の際に、ちらりと挨拶をした運転手さんの肌は褐色だった。その運転手は客が席に着いたか着かないなど一向に構わず、急発進&急ブレーキでバスを走らせ始めた。「インド人の運転は比較的乱暴ですね」というのがケイくんの考察だ。私は弾みでよろけて、大きな荷物を背負った一人旅らしいお姉さんにぶつかりそうになった。お互いに言葉が通じないのが分かっているので、(すごいわね)というアイ・コンタクトで思わず笑ってしまった。 

「ウィスラーはリゾートだけど、みんなにも普通の人の生活を見て、触れてほしい」というのが、今回のフサキさんのテーマだ。ボードの後のプールという提案もその発想に基づいていている。

プールの中では、地元のちびっ子たちがスイミングスクールのレッスンを受けていた。小学生低学年のくらいのクラスと、まだ幼稚園くらいの小さな子のクラス、それぞれが1~2本のレーンを専用で使いレッスンを行っている。メイン・プールの隣には子供用の波の出るプール、それにジャグジーやドライとミストの2種類のサウナがあった。 

温かいジャグジーにつかりながら、どうやら競争をしているらしい小学生クラスの子供たちの様子をのんびり眺める。ビート板を使って泳ぐ2人の子をみんなが大声と全身を使って応援している様がかわいらしい。それでもきっとこの中でも人気のある子や、運動が苦手な子や、それぞれ日本と同じような事情があるのだろう。 

窓から見える夕暮れの空はまだ明るく、やはりウィスラーの春の時間は贅沢だ。

本格的なインドカレーは、ともかくうまくて食べまくってしまった。

夕食はウィスラー・ビレッジ内では絶対にお勧めのカレー屋さんへ行った。ここは、現在dmkライダーとして活躍中の秋山トオルくんが、以前アルバイトをしていた店だ。フサキさんが店のマスターに「以前ここで友達が働いていたんだ」という意味のことをいうと「名前は?」と訊かれ「トオルだ」と答えるとマスターの顔がパッと輝いた。トオルならよく知っているというマスターに「彼はこの店が大好きで、カレーを愛していて、将来カレーの店を持つことが彼の夢だ」とフサキさんは調子よく続ける。マスターは笑顔でゆっくりしていってくれと言ってくれた。 

最初はお店の人に、この人数で足りるのはどのくらいの量かと相談して注文したカレーの量だが、いざ食べ始めてみるとみんなの食欲ではどうも足りないようだ。あっという間にお皿が空になっていく。「やっぱりカレーは人数分だよ」ということになりカレーやナン、ライスを追加。カレーだけでも十分おいしいのだが、今回はスペシャル・プレゼントが待っていた。それはお店の人が途中で差し入れてくれた“グリーン・チリ”なるもの。メキシコ料理でいうハラペーニョだ。タイ料理などでもよく出てくる感じがあるので、みんな結構なじみがあるのかと思ったが、以外にも大半の人が初めてだったようだ。自称辛いもの好きのフサキさんとゆうじろうさんがたちまちハマって「これうまいよ!」と興奮している。その一方で辛いものに弱いというノギーは、なかば無理やり試させられて「辛い!ダメだ!」と大騒ぎ。
ゆうじろうさんの勝手な命名で“グリーン・ヘブン”と名づけられたグリーン・チリをお代わりして、それがラストという意味で改めて“ラスト・ヘブン”と名付けなおし、追加のカレーもきれいに片付いた。このグリーン・ヘブンという名はもちろん昼間滑ったセブンス・ヘブンから取っているものだが、ゆうじろうさんは「どう?満足している?」とテーブルの様子を確認にきたマスターにグリーン・チリを指して「スパイシー・ヘブン」と親指を立てて一言。だがその一言で、すべてがきちんとマスターに通じていたから、すごいというかなんというか(笑)。
 

食事を終えて店を出ようとしていると、奥から若い店員さんが出てきて「ジャパニーズ・ガイ“トオル”に、ウィリーがよろしくいっていたと伝えてくれ」とメッセージを託された。今年はウィスラーにいないトオルくんだが、彼はいつでも優しくて気遣いのできるナイス・ガイ。トオルくんがこの店であるバイトしていたのは確かもう3年以上も前になる。それでもまだ店のスタッフに愛されているところがとても彼らしい。 

滑走日2日目

滑走日2日目は、少し曇り空。今日は一日、タクミくんがコーチに入ってくれる。そして夕方にはビデオ・クリニックが予定されているので午前中はその撮影に当てられた。だが山の上はガスが多くて、なかなか撮影に適した場所がない。それでもミニ・パークの隣の斜面がいくらかガスが薄かったので、そこでまずはロングターンから撮影を開始した。続いて自分の好きなターン。そして最後にフェイキーだ。そのあとはパークに行く予定もあったのだが、その頃になるとだいぶガスが濃くなってしまったので、無理をせず早めにお昼にした。     

日本とカナダのナショナルチーム選手がゲスト・コーチとして登場!

早めのお昼を取ってのんびりしている私たちのところへ現れたのは、大きな瞳がいつも好奇心に輝いているようなダン・レイモンドと、きのうビレッジで遭遇した山岡聡子ちゃん。聡子ちゃんを近くで見るのは初めてだが、キリッとした面立ちにはっきりした言葉遣いのしっかり者のお姉さんタイプ。ダンは、彼がいるだけで、なんとなくその場の雰囲気が明るく楽しくなるようなやんちゃ坊主タイプだ。しかしその実は、現在カナダのナショナル・チームに所属しているすごい人なのだ。

オリンピック選手&カナダのナショナル・チームの選手にコーチングしてもらうとなって、自分などが教わって本当に良いのかという疑問が頭を掠めるが、すでに目の前にいて楽しそうにニコニコ笑っている聡子ちゃんを見ていると、なぜかもうあまり難しいことを考えたくなくなってしまった。さっそくみんなで山に上がる。ダンはとても親日派で、日本語もかなりたくさん使って話してくれる。英語も非常に分かりやすい言葉で、一語々々丁寧に話してくれるので、この場にいる全員が通訳なしでも彼の話を理解することができる。いつも笑っている印象の強い人で、その証拠ともいうべき、両頬にくっきりと刻まれた笑い皺がとてもチャーミングだ。今年で34歳になるが、その実力がまだ伸びていることが本当に素晴らしいとフサキさんが絶賛していた。 

まずはダンについてゲレンデをクルージング。ダンはリフトの上でいっしょになると、とにかくいろいろ話して笑わせてくれる。彼はもともとジュニア・チームのコーチであったこと、そしてその当時教えていた子供たちが今は一緒のチームにいるんだと言って笑う。一緒のチームというのはもちろんナショナル・チームのこと。だがこうしてリフトの上に一緒にいてもそれを鼻にかけるような雰囲気を何一つ感じさせない人だ。その上、自分は選手として遅咲きだから彼らに抜かされないように必死だよ、とそんなこともまるっきり冗談のように、あっけらかんとして言う。それほどカラリと言われても、それが本当は冗談じゃないんだということくらいはちゃんと理解できる。だが、まるで他人事のように笑いながらそう言う彼には、何かそれさえも超えてしまった鳥瞰図のような視点があるように思えた。 

ダンはほかにも、一番好きなゲレンデはウィスラーだけど二番目はニセコなんだとか、北海道に行くとカニやウニがおいしい、それにホタテが一番好きだからまた日本に行きたいとか、カナダ以外の国でコーチの仕事をしてみたいとか、短い時間の中で本当にいろいろなことを話してくれた。おまけに日本語の使い方は本当に巧みで、年齢を訊かれたコーキが15歳だと答え、続いて訊かれたノギー(本当は2×歳)が14歳だと冗談を言うと「マジでぇ~」と大きな声で突っ込みを入れるほど。ダンとだったらいつまでもリフトを降りたくなくなってしまうほど楽しい。だってダンの乗ったリフトからは本当に大きな彼の笑い声が後ろの席までハッキリと届くのだ。

クルージングを終えてからはいよいよパイプへ向かった。ウィスラー・ブラッコムのパイプはとにかくシェイプがきれいで美しい。この時期はもう雪が少ないのでミディアムサイズのパイプしかオープンしていなかったが、それだって、自分なんかが何かのはずみでリップを抜けたら死んでしまいそうだ。 

ダンと聡子ちゃんが代わる代わる丁寧に、そしてまずケガをしないようにということに重点を置いてレッスンを進めてくれた。まずはパイプの中をゆるゆると壁の角度や状態を確かめながら降りる。続いては聡子ちゃんを先頭にみんなでその後を続いて滑るトレイン。上手な人の後を滑ることで、ライン取りを始めとするパイプの中でのコツがものすごくよく分かる、どちらかと言えば企業秘密を教えてもらうような禁じ手の上等レッスンだ。自分で滑っているときとは明からにラインが、そして勢いが変わってくる。ああこうなのかと思う反面、前の人に遅れないように必死に付いていかなければならず、そのことに焦って「ひゃー」とか喚いているうちにあっという間に下についてしまった。聡子ちゃんは本当に気取らない人で、素人の私たちと同じ目線の高さまで降りてきて、どうにか理解して欲しいと言葉を選んで、身体で覚えて欲しいニュアンスをこの短い時間で少しでも伝えようと、本当に一所懸命、真正面から付き合ってくれた。その様子を見ているとこの真剣さと熱い血がこの人をオリンピックまで連れて行ったのかもしれないなと感じる。

まだまだ教えてもらいたいし、まだまだ滑りたいけれど、何しろパイプがでかいのでハイクアップするだけでもどんどんと時間が過ぎていく。残念だけれどこのあたりで二人にはお別れを言わなければならないようだ。そういえばさっき、ハイクアップの途中で音(ね)を上げていたら「さあ、がんばって!僕や聡子は毎日こうしているんだよ」とダンに励まされた。ニコニコ笑っているダンの、ちょっぴりまじめな励ましがかえって心に響いた。 

キャンパーに真剣に教える聡子ちゃん。とても丁寧でわかりやすいレッスンだった。

最後はダンと聡子ちゃんを囲んで記念撮影!

別れがたい気持ちで二人と記念撮影をしていると、そこへさっきから同じパイプできれいなエアターンを決めていた東洋人の女の子が「あれ?やっぱりアヤちゃんだよね」といって近寄ってきた。ピンクのウェアーがよく似合っていて、きれいなエアターンをクールにかますのに、すごくキュートな感じの子だなと思っていたら、どうりで。ミナミのプロライダー、そしてリルに所属しているアキコちゃんだと紹介された。初日のユキエちゃんたちといい、この時期ウィスラーには本当にたくさんのプロが来ているのだ。

山を降りてから、今日の食事はフサキさんが「おいしい」と太鼓判を押したパスタ屋さんへ行った。事の発端はアヤちゃんが、以前カナダを旅行しておいしいパスタを食べたことがないと言ったことから。「カナダのパスタってみんな柔らかいの?」というかなり乱暴な質問に、フサキさんがあそこならおいしいよと教えてくれた店だ。行ってみるときのうのカレー屋さんの下の店…。「オレら、ここしか食事場所知らないみたいだなぁ」と誰かが自嘲気味に言う。はい。たしかに…。

まぁとにかく私とアヤちゃんはラザニアとアラビアータを頼んだ。生麺を使用しているらしく、フサキさんのお勧めどおり、ちゃんと腰があっておいしいパスタだった。 

そうそう、順番が逆になってしまったが、夕方にはバタバタと着替えビデオ・クリニックも行った。今回のメンバーはみんなレベルが高くて、特にクリニックを受けなければならないような人はいない。ビデオで見てみるとその実力がさらにハッキリと分かる。もともとあっさりやる予定のビデオ・クリニックも本当に滞りなくあっさりと終了。夜の予定に向けてとりあえずは解散したのだった。 

あまり観光客が訪れないような小さくてカジュアルなレストラン。とてもおいしかった!

フサキさんによる好評ビデクリも行われた。

さて、その夜の予定だが、なんと今回のキャンプの募集当初から変なテンションを醸し出した「ナイトクラブ」。フサキさんが高校生以来のダンスを披露すると言って、みんながその言葉をどう受け取っていいのか大いに悩んだ、あのクラブへ出かけるという一大イベントが待っているのだ。ただ、最初に言っておくと、メルマガで「おしゃれな服を持ってこい」なんて書いていたから、ドレスコードがあるような高級店に行くのかと思った人も多かったようだが、実際はデニムでOKないわゆる“クラブ”であった。 

食事から戻って、慌ててお風呂に入り、準備してきたスカートを取り出す。笑われそうだが、私とアヤちゃんはドレスコードがないことは承知の上で、この時のためにお洒落をする約束を日本で交わしてきたのだ。2人とも化粧もばっちりしていざ待ち合わせのロビーへ。でもみんなの反応はいまいち。あれ?引かれちゃった??でもまぁ、せっかくのフサキさんのがんばりを盛り上げるためにはこのくらいの演出はいいではないか。 

待ち合わせはしてみたものの、クラブへ行くにはまだちょっと時間が早過ぎるということになり、バーで飲んでから出かけることにした。しかし、数軒を覗いてみたが、どこも満員だ。実はここ数日、ちょうどアイスホッケーの試合が行われている。バンクーバーに到着したときから小さな旗をつけて走っている車を何台も見かけたが、それはバンクーバーのプロリーグ、ナショナル・ホッケーリーグに所属しているチーム、“バンクーバー・カナックス”の旗だったのだ。カナダ人はアイスホッケーがとにかく好きだと聞いたことがあるが、それは本当だ。カナックスが試合に出ている日はウィスラーでもみんなとてもエキサイトしている。どこのバーも大きな画面で試合を映し、客は一本のシュートごとに一喜一憂する。 

ようやく席があると通されたバーは、結局、ホテルの隣にあるいつものバーで、しかもその席はホッケーの試合を映し出している大きなスクリーンの真下だった。頭の真上にスクリーンのロールがある。日本人なら試合が見られなくても関係ないでしょ的な扱いだったが、まぁ、ある意味そのとおりなので、よしとしよう。 

カナックスの試合も終わり(どうやら負けてしまったようだが)、バーの中もいつもの落ち着きを取り戻してきたので、そろそろクラブへと出かけることにした。

クラブの中はまだそれほど混んでいなかった。 
入り口には受付があって女の子が2人いたが、なぜか入場料のようなチャージも取らず、そのまま中へ入れてくれた。しかし、入ったはいいが、私たちはなんとなく所在無げに壁際に集まって、照れくさそうに顔を見合わせながら、これからどうすればいいのか考えていた。なにしろ普段はクラブなんて場所とは関係ない遊びをしているようなメンツばかりだ。私にしたって、せいぜいライブハウスには顔を出しても、クラブなんてお洒落な響きとは無縁な人間だ。とりあえず、さっきのバーの勢いのままアルコールを口にして、ローカルらしい女の子2人が、ふざけながら踊っているだけのフロアを遠巻きに眺めてみた。 

せっかくがんばってはいてみたスカートだったが、そのせいでどことなくリラックスもできない。トイレへ行ってみると4個ある個室の鍵はすべて壊れていた。それを見てようやく普通じゃない場所なんだなと気づき、フサキさんのメールにあった「普通のツアーでは絶対に行かない場所」と言う言葉を思い出した。せっかく来ているのだから、やはりここだって楽しまなくてはもったいない。 

空いていた店内も1杯飲み終わる頃には、いつの間にか客も増えてきていた。そのフロアで数人の欧米人にまぎれながらフサキさんが一人で身体を揺すっている。「ダンスを見せる」と言った手前、まず先頭を切って何とかしなくてはと思ったようなのだ。このままフサキさんを一人にしておくわけにはいかない。そう思った私は一発奮起してフサキさんのそばで軽くステップを踏んでみた。そんな自分の存在が周りから浮いているような気がしてひどく恥ずかしかったが、こういうことって、まずは身体を動かさないことには始まらないのだ。恥ずかしいとかそういった理性の部分は、身体を動かしているうちに取れてしまうものだ。そうやって適当に踊っていると、そばにアヤちゃんとゆうじろうさんが来てくれた。ゆうじろうさんはなんだかおちゃらけたポーズで踊っている。2人が来てくれたことで、私も気持ちが一気に軽くなった。そうなってしまえばこっちのもので、後はもうわざとらしいくらいに派手なダンスをするほうが楽になる。気がつけば他のみんなも恥ずかしそうな顔をしながらもそばに来て、踊ってくれていた。ようし!それなら!と酔いも手伝って、さらに汗だらけになるまでステップを踏みまくった。 

飲んで暴れれば当然酔いがまわる。フラフラしながら2度目のトイレに行って戻ってくると、みんなが帰り支度をしている。「えー、もっと飲もうよぉ」といったら「じゃ、店を変えよう」と外に連れ出された。こうして、“疑惑のナイトクラブの夜”はどうやら?無事に終了を迎えたのだ。ちなみに、勢いがついた私たちはそれから本当に別の店に飲みに行こうとしたのだが、どこもラストオーダーの時刻を迎えていて、ようやく「この時間でも空いてるお店なら、この向かいの地下の店ね」と教えてもらった店は、さっきのクラブという顛末で、残念ではあったがクラブで火照った頭も夜風で冷えたので、渋々それぞれの部屋へ戻っていったのであった。

バンクーバー観光へ 

さて!ついにウィスラー滞在4日目!そして今日は全員がオフ日!(レポートもこのあたりで気分を変えてリフレッシュ!(笑))そして天気も朝からしっとりと雨。山へ上がらない日にふもとで迎える雨というのは、気持ちのクールダウンになる。
今日は、グッチくん以外はバンクーバーへ観光に行くことになった。グッチくんは釣りに行く。フライ・フィッシングだ。大自然の中でのフライ・フィッシング…。イメージしただけで、凄くカッコいい。釣りに興味のない私の知識では、ブラッド・ピットが主演した映画の印象的なシーンを思い浮かべるのがやっとだが、釣りの中でも技術を要する難しい分野だと聞いたことがある。

私たちはホテルのロビーでグッチくんの健闘を祈りつつ、タクミくんがハンドルを握ってくれる13人乗りの大型なバンに乗り込んだ。今年の観光には、なんとフサキさんも参加してくれる。nomisの日本代理店代表の顔を活かし、引っ越ししたばかりのnomisのオフィスに連れて行ってくれるというのだ。それは充分に嬉しいプレゼントだ。だが、そんなビッグなオマケがなくても、普段、フサキさんと会うことがあってもいっしょに遊ぶということはまずないだけに、こんなオフ日にいっしょに出かけるというのだけで、なんだか嬉しい。

バンに乗ってバンクーバー観光へ出発!

早速バンに乗り込んだが、昨夜夜遊びしたせいか、体が重くてとにかく眠い。おまけにこんなにしっとりした天気ではどうしたって眠くなる。出発して程なく、“いつの間にか自分では起きているつもりでも、はっと気が付くとまぶたが閉じていて、それがどの程度の時間だったのかまるでわからないようなウトウト状態”になってしまった。みんなも似たり寄ったりの状態だったらしく、運転してくれたタクミくんには申し訳なかった。

バンクーバーの街に近づくとウィスラーよりも気温が高いことが、よくわかる。窓の外は雨。車のワイパーが必要なくらいの雨だが、街を歩く人たちの半分くらいは傘を差していない。なぜか、バンクーバーの人たちは雨が降っても、よほどひどい雨で無い限りは傘を差さないのが基本らしい。理由はいろいろ憶測されている。ひとつには、冬の間は毎日小雨がしとしと降っている、でも、それも短い時間で降ったり止んだりするので傘を持って歩くのが面倒というもの。また、基本的に日本より湿度が低いので、濡れてもすぐに乾いてしまうからだというもの。ちょっとの雨でもすぐに傘を差す日本人の私にとっては、いつか街の人に、その理由の統計でも取ってほしいところだ。

タクミくんが市街地の道を走らせながら、フサキさんが引っ越して間もないnomisオフィスの場所を電話で確認している。そのうちフサキさんの「あ、ここだ。ここ」と言う声で、人通りの少ない線路の脇の駐車場へ車を入れた。私たちの車が駐車スペースに納まったちょうどそのタイミングで、後ろからもう一台の車が入ってきて、慣れた感じで向かいのスペースに駐車した。止まった車の運転席から背の高い男の人が降りてきた。見るとnomisのラウリ・パーカを着ている。あれ?nomisのスタッフ?と思っていたらタクミくんが「あ、シモンだ」と言う。「うそぉ!?」間髪入れずそう言ったのはフサキさんだ。そして良く見直して「あ、ほんとだシモンだ。すげー」。シモンは自分の車をロックしながら、こちらの車にちらりといぶかしげな視線を投げると、雨を避けるように小走りに駐車場を出て行った。「みんな凄いよ!!ついてるよdmk!オレだってシモンにはたまにしか会ってないのに」フサキさんはみんなのあまりのラッキーさに興奮している。逆にみんなの方はあまりのことに言葉がないのだ。

nomisのオフィスは、扉に頑丈なロックのついた古いビルの地下にあった。古いといってもビルの中は全体的にリフォームが施されている。貨物用のような無骨でゆっくりとしたエレベーターで地下に降りると、そこがオフィスだ。社長のマット(シモン兄)に案内されて奥へ入る。「どうぞ。遠慮しないで」という様なことを言ってくれているのだが、そう言われてもみんな緊張して、社会科見学に来た小学生のように押し黙って、固くなっている。

オフィスは入り口にカウンター、その先に応接用、といってもとてもリラックスした感じの低いテーブルセットがあり、もうそこからは、がばっとオフィス全体が見渡せる感じだ。地下といっても、単にビルの表の道が裏手より高い位置にあるだけのようで、部屋の奥は全体が型板ガラスの窓になっていて、明るい外の光が入っていた。室内は床や柱、天井の梁などにむき出の木材を使っていて、ナチュラル感が強い。部屋の中央にデスクがいくつか、あとはガラスで区切られた、個々のオフィスが数区画、奥の窓側の明るい場所にはデザインなど、実際に制作や作業をするための雑多な感じのスペースが広がっている。そこにはサッシの嵌ったシャッターがあり、それを開けるとトラックなどが直につけられる搬入口になる仕組みだ。室内を一通り案内してくれたあとマットは「どうぞゆっくり見て」と言ってくれたが、“社内”いわば企業秘密的な場所で、写真など勝手に撮っていいのかと考えると、普通の日本人なら遠慮する。みんなの固い表情にフサキさんが「どうしたの?」と声を掛けてくれたので、思い切って写真を撮ってもいいかと訊いた。するとマットからは「ああ!まったく構わないよ。もっと勝手にウロウロして、いろいろな場所を見て、家に来たってくらいのんびりしていってくれて構わない」と実にサラリとした答えが返ってきた。その言葉を聞いて、ようやくみんなの緊張が解けたようだ。途端にみんなウロウロと好き勝手なことをし始めた。ちなみにオフィスにいたシモンとは、もちろん握手をしていっしょに写真も撮ってもらった。

超気さくなオフィスは広くてクリエティブ感が漂っていた。

カリフォルニア帰りのシモンにみんなツーショットしまくり!

nomisオフィスを出てからは、ロブソン通りへ向った。通常バンクーバーでショッピングをするなら、まず一番目に名前の挙がる通りだ。雨はすっかり上がったようで、もう太陽も顔を出して、濡れた路上に涼しい風が吹いている。ロブソン通りでお昼も取った。自由行動をして良かったのだが、結局全員がフサキさんおすすめのコリアン料理の店に行ってしまった。やはりローカルの人の口コミには弱い。店内に入ると、どこから沸いてきたの?っていうくらい、右のテーブルも左のテーブルも韓国人だらけ。家族連れやカップルが多く、みんないかにも、地元の食堂でリラックスして食事をしているという感じで、何だか妙に強い生活感のある光景だ。まるでバンクーバーではなく韓国へ来たのかと錯覚してしまいそうだった。

肝心の料理の味は、注文した料理によって当たり外れはあったようだが、大方の意見は「とてもおいしかった!」。ちなみに私が食べたのは“キムチ・スンドウブ・チゲ”。韓国料理屋へよく行く人にはポピュラーな料理だろう。ごま油が効いていて、メチャメチャうまかった。

昼食後は、残り僅かな時間の中、強引にショッピングして、次はボードショップの集まる区画へ連れて行ってもらった。店の数は少ないが東京で例えたら神田に当たるのだろうか。そこでも駆け足で数店回って、とりあえず、今日のメイン・イベント第2段とされているアクア・ミュージアムへ向う。スタンレー・パークの中にあるカナダで一番大きな水族館だ。

「私の一番好きな魚、教えてあげようか」水族館へ向う車内でアヤちゃんが言い出した。「あのねー、チンアナゴ!」。「は!?」静かな車内に元気よく響いたその名前に、一瞬みんな言葉を失った。「え?チンアナゴ、知らない?ガーデン・イールともいうんだけど」チンアナゴというのは一般的な和名らしいが、ちょっと変な、聞きようによっては危ない響きの名前に車内は爆笑だ。「なにそれ?アナゴなの?」「かわいいんだよ?穴からピョロピョロって出て。あとで教えてあげるよ」アヤちゃんがそう言ったところで、車もちょうど駐車場についた。車から降りると、雨上がりの緑がキラキラと輝いて、すがすがしい空気に身体を包まれた。

さて、今回の観光で“水族館”という選択に「誰がリクエストしたの~?」って声も聞かれたが、すいません、犯人は私です。実は以前、個人的にウィスラーに来たときに、ここへ来たくて、ウィスラーからはるばる高速バスに乗って、道に迷いながらたどり着いたのだが、その時には閉園時間まぢかになっていて入れてもらえなかったのだ。おみやげを売るミュージアム・ショップだけが開いていて、そこのガラス扉から屋外プールでゆったりと泳ぐシャチの姿を寂しく眺めていた虚しさを、まだハッキリと憶えている。今回、事前のメールで「オフ日にしたいことは?」というリクエストがあり、それに「水族館!」と書いたら採用してもらえたのだ。

入り口で入場券を手に入れる。ここでは再入場をしたい人は手にスタンプを押してもらうのだが、もう開園時間も残り少ないのに、みんなおもしろがって手にスタンプを押してもらっていた。nomisオフィスでの社会科見学的な緊張といい、今日のみんなは小学生みたいだ。水族館の中は、生き物が生息している地域などによってパート分けされている。まずはローカルエリアへ侵入。いきなり不気味なヒトデ発見。サンフラワー・スターとかいう名前だが、ううむ、でかい。あとでちゃんと調べてみると世界最大級のヒトデで1メートルくらいあるんだそうだ。バンクーバーの付近では見られるけれど世界的には珍種。

実はボードショップをあとにするときに、水族館なんて行かないで、ここに居たい!というような意見もあったので、水族館のリクエストを取り入れてもらった私としては、ごめんなさいという気分で内心ちょっと心配していたが、入ってみれば結構みんな楽しそうだったので胸をなでおろした。みんな写真を撮ったり「ねぇ!この魚、えらっちみたい!」と、誰かに似た魚を見つけてからかったり、恐らくは半数以上の人が久しぶりと思われる水族館を楽しんでいたようだ。

次々とコーナーを移動していくと、なんと、偶然にもついにチンアナゴ発見!!「そう!これー!!かわいいでしょ~!」とアヤちゃんは大喜びで得意満面だ。チンアナゴはガラスの向こうでヒョコヒョコと伸びたり縮んだりして餌を取っている。確かにユーモラスな動きがとてもカワイイ。ダイビングをする人たちの間では結構人気のある魚だそうだが、臆病なので、ちょっとでも近づくとピュッと引っ込んだっきり、当分出てきてくれないという。

フサキさんお気に入りはこのきれいな色のクラゲ。

アヤちゃんオススメのチンアナゴは、そのユニークな動きでクラブ員も虜にしてしまった。

水族館といえば、魚だけではなくイルカやアザラシなどの哺乳動物を見るのも大きな楽しみだ。屋外のプールでは真っ白なシロイルカ(ベルーガ)が楽しそうにこちらを見ながら泳いでいる。比較的人懐こいといわれるシロイルカだが、興味を持つと本当に何度でもこちらのことを見に上がってくる。

哺乳動物の中で一番おもしろかったのはアザラシで、ガラスのこちらからパンフレットで「カッカッカッカッ…」と軽い音を立てると、それが楽しいらしくパンフレットに鼻先をくっつけて動き回るのだ。右に動けば右、下に動けば下、ぐるっと円を描けば向こうも円を描くといった具合に、ピッタリとくっついてくる。アザラシという動物も結構人が好きなようで、ガラスの向こうでもこちらが歓声を上げたりすることを楽しく感じるらしい。ただし、おもしろいことにコイツらは案外、人の好き嫌いがハッキリしていて、相手が誰でもいい訳でなく、気に入らない相手だと、いくら同じようにガラスを叩いてもぷいっとどこかに行ってしまったりする。今回遊んでくれたアザラシはタクミくんとコーキのことは気に入ったようだが、フサキさんに交代した途端ぷいっといなくなってしまった。「え~!何だよ!かわいくないなぁ」とフサキさん。まぁ相手はアザラシなんで、大目に見てやってくださいね(笑)。 

楽しい時間はあっという間で、館内にはもうすぐ閉園するといった旨のアナウンスが流れ始めた。みんなは素直にお土産コーナーへと向っていったが、私はまだトドも見ていないのにー!と一人で急いでトドのいるプールへ向ったが、そこへ続く小道の入り口にはもうプラスティックのチェーンが掛けられ、それには「この先のコーナーはもう終わりです」と書いた札が掛けられていた。なんだよ、残念だなぁとプールの方を覗き込んでみる。木立の間から見え隠れしているプール。その感じに何か見覚えがある。そういえばこの小道の先のプール、昔シャチがいたプールだよなぁ…と気がついた。どうもこのプールには縁があるようだ。

水族館を出て、少し公園を散歩した。スタンレー・パークは広大な自然公園だ。午前中の雨でたっぷりと水を含んだ芝生が、明るい光の中でまぶしいほどに光っている。芝生に踏み入ると濃い土の匂いがした。少しのんびりしたくて公園の中を海に向ってゆっくり歩いた。短い時間だけれどとてもリラックスできる。「この公園を散歩するだけでも、半日ほしいくらいだよね」とアヤちゃんが言っていた。バンクーバーをうらやましく思うことのひとつは、こういう広大な自然環境が街の生活のすぐそばにあるということだ。

海まで着くと海沿いに公園を一周している遊歩道があって、そこからは海を挟んでバンクーバーのダウンタウンを眺めることができる。平らな海の向こうに高いビルが所狭しと伸び上がっている。今にも海の上に進出してきそうだ。「バンクーバーもいつの間にかビルが増えたよな」ぽつりとタクミくんが言った。

フサキさん以外のクラブ員に寄ってくれる可愛いアザラシ。

美しいバンクーバーの町並みを記念撮影。

スタンレー・パークを出ようとして、もうひとつ幸運に恵まれた。抜けられると思った道が通行止めで道に迷ってしまったのだ。ところがそのおかげで、いつの間にかスタンレー・パークの人気スポットに到着していたのだ。プロスペクト・ポイントといって、バラード入り江を見下ろすことのできる、とても小さな岬だ。場所はライオンズ・ゲート・ブリッジの隣。「タクミくん、凄い!これもサプライズ?」とタクミくんはみんなにからかわれていたけれど、実際これって本当にお手柄だ。このポイントはバンクーバーに向ってライオンズ・ゲート・ブリッジを渡っているときに、注意して見ているとちらっと右側に見ることができる。ブリッジ側から見ても、柵のある古い庭園のような、ちょっとロマンチックな石垣がかわいらしい場所だ。私も初めて来た場所だが、ここから見下ろす景色はちょっと感動だ。少し西に傾き始めた太陽に海面が反射している。すぐ足下を大きなタンカーがゆっくりと力強く滑っていく。偶然だったけれど、本当に素敵な景色だった。

今日のdmkの幸運はこれだけでは終わらない。スコーミッシュに近づく頃、虹が出た。それもみごとにくっきりと。よく虹の根元には幸運が埋まっているとかいうけれど、それってたどり着けないからいうことなのに、やべ!たどり着けちゃったよっていうくらいくっきり根元まで見えているのだ。しかも両端とも。これってずいぶん珍しいと思う。後ろの席でアヤちゃんが虹の色の数と順番を人に訊きまくっている。アヤちゃんって、たまに突拍子もないことを言い出すから不思議だ。

クラブ・レポートには数々の記念撮影をアップしてきたが、これほどまでにアホな写真は初めてだ。おもしろ過ぎる~

スコーミッシュでは、本当はアウトレット・ストアによる予定だった。これでも結構頑張って、いろいろな場所で心残りをしながらも時間をつめてきたのに、アウトレット・ストアのドアには無情にもCLOSEDの札が下がっていた。うーん、残念!だが、ここでくじけないのがdmk。道路の向かい側にウォールマートを見つけた。「よし、じゃアメリカのおばちゃんが熱狂するウォールマートに行ってみよう!」とフサキさん。
ウォールマートの駐車場に入っていくと、隣に大きなDIYショップがあることに気づいた。「あれ?ゆうじろうさんとか、こういうとこ見たいんじゃないの?」。ゆうじろうさんの職業は大工さんなのだ。「あ、オレもここ見たいなぁ」ととおるさんが言う。「ああ、いいかもねぇ。こういうところにはまず観光客なんて行かないよね」とフサキさんもおもしろがっている。ということで、まずはDIYショップに決定!実は私もこういう店は大好きだ。「ゆうじろうさんがどういう道具を見るのか、それを見たいよね。プロの視点でさー」とフサキさんが言う。うん、確かに興味あるなー。入っていくと、想像はしていたけれど、でかい。ここなら例え半日居ても飽きそうになかった。

続いてウォールマートへ。もちろんここも計り知れないくらいでかい。結構時間をかけたけれど、とうとう店の端から端まで回ることはできなかった。歩いているだけでも疲れてしまうくらい広いのだ。もうこんなスーパーには慣れっこになってしまっているフサキさんは、早々に飽きてしまったようだけれど、みんなそれぞれにとても楽しかったようだ。

ところで、忘れてはいけないのが、一人、フライ・フィッシングに出かけたグッチくん。彼はどうしていたかというと、どうやらなかなかの大物を釣り上げたようだ。一抱えもあるマスを釣り上げたらしい。出かける前には「釣りなんて中学生以来、ずっとやっていないから自信がない」なんて言っていたけど、あれ、本当はウソでしょ?

最終日

5日目はとうとうライディング最終日だ。今日いっしょに山へ上がってくれるのはハジメくん。初日のウェアーとはまた違ういでたちで現れた。濃いグリーンのパンツ、水色のデニムのシャツにライト・グリーンのダウンのベスト、それに赤いビーニーを合わせている。それを褒めると、あの例の笑顔でにかっと笑ってくれた。

昨日の雨が、山では雪だったという情報がある。もしかしたらパウダーにありつけるかもしれない。いつもどおりゴンドラで上がると、薄っすらとだがサラサラとした新雪があった。リフトでさらに上まで上がったあと、非圧雪のバーンに入ってみた。こういう少ない新雪の場合、昨日までの荒れた雪面がその下で硬く凍っていたりするので、見た目の甘さに比べるとハードだったりする。案の定ボコボコの斜面に板をもてあそばれたが、本当に久しぶりの新雪では、その手荒い歓迎さえも楽しみのうちだ。滑り終わった板の上には新雪がもっさりと乗っている。その“これぞ新雪!”って感じが本当に嬉しい。
朝の内にはアバランチ・コントロールのためにクローズしていたセブンス・ヘブンがそろそろ開くのではないかという話を聞いて、移動を開始した。セブンス・ヘブンは、ふもとから見て一番右側にあるゲレンデで、長いトラバースをしていかないとたどり着けないのだ。

 季節はずれのパウダーに恵まれたミラクルDAY!

 雪の良さにテンション上がりまくりです!!

先にも書いたが、新雪が積もったときのセブンス・ヘブンを見逃す手はない。平日とはいえ、誰もが狙っている場所だ。フライング気味に乗り込んで、もしもノートラックをいただけるなら最高だ。

予想通り、私たちが乗り込んだとき、その天国は開放されたばかりだった。「やったぁ!予想通りっすね!」ここへ移動する前に、リフトの係員にオープンの状況を逐一確認してくれていたケイくんが嬉しそうな声を上げた。

ただでさえ広いセブンス・ヘブンの斜面が真っ白に見える。だがどことなくガスが出ていて、雪面の状況をはっきりとつかむことができない。
「ま、とりあえず行ってみますか…」そういってハジメくんとフサキさんが先頭を切った。ここで後れを取ってはならないとすぐに後についていく。滑り出してすぐにパウダー特有の軽い摩擦をソールに感じた。この感覚に間違いはない。フサキさんもハジメくんもあっという間にスピードを上げていく。彼らは斜面の切り返しの部分で止まると二人とも「すげ!何だ、これ?」と言った。いま滑った感覚がまさに、何だ、これ?といった感覚なのだ。そして、そこから下にはガスの部分も抜けて、見間違えのないパウダーが広がっているのが見える。パウダー好きのメンツが、我慢できずにうずうずとしているのが空気で伝わってくる。こういう時、こいつらはなぜだか無口になる。表面的には変わらない、というか落ち着いてさえ見えるのに、興奮を内に秘めると表現すればいいのか…。だが、声に出さずに押さえ込んだところで、纏った気配が明らかに変わり、空気を揺らすから、まわりにいるこちらにもはっきりと判るのだ。

とにかく、パウダーを目の前にしたら、もう遠慮とか、気遣いとか、そんなものは全部どこかへいってしまう。「じゃ、行きますか?」と言うが早いか、ハジメくん、フサキさん、コーキ、とおるさん、みっくんらが他を差し置いて飛び出していく。慌てて私もそれに続いた。

ソールの下でパウダーが摩擦を起こしてヒュルヒュルと鳴く。高い空に浮かぶ雲が細かい氷の粒でできているというのなら、パウダーを滑ることは、きっと雲の上を滑ることに限りなく近い行為だろう。

確かに少し重めではある。5月の初旬に降ったパウダーが、真冬に降ったものと同じであるわけがない。それでも、もうどうにも止めることのできない気持ちいいライディングだ。この気持ちいいライディングは、ウィスラーでは少し滑ったからといってすぐに終わってしまうことはない。こちらが疲れるほどにずっと続く。そして、ようやく止まったところでも、やっぱり「何だ、これ?」と言わずにはいられなかった。そう、5月なのである。街には八重桜が咲いて、Tシャツだけで歩ける初夏なのだ。それなのに、デッキの上にもっさりとたまるパウダー、そしてこれほどの量のパウダーはここ最近では珍しいという。いろいろな意味で「何だ、これ?」という言葉がぴったりなのだ。

昼からは、今日も特別ゲストがやってきた。いまウィスラーで最もパークがうまい人間といわれ、ウィスラーの主と呼ばれる男アンドレ・ベノアだ。その彼がジブを伝授してくれるという。だがアンドレと合流しても、やはりこのパウダーを楽しまない手はない。せっかくなのだから、一緒に背の低いトゥリーの間を抜けるクルージングも楽しんだ。木が風を防ぐために、ここにはさらに深いパウダーが溜まっていて、深い所ではひざ下ほどにもなる。アンドレには途中の段差でダウン系のジャンプを見せてもらったり、これはこれでなかなか楽しい時間を過ごすことができた。

パーク大王アンドレ!ジブ、ひとつもできなくてごめんね。
でも、ありがとう!!

さて、ついにパーク大王アンドレの講習が始まった。が…、始まった途端みんなの頭の上に「?」マークが浮かぶ。一人平均3つ以上、ポンポンポンと目で見て分かるほどに「?」マークだらけだ。要するにアンドレがやって見せてくれる技が、いくら説明を聞いても頭が理解しないのだ。「テールでジャンプしてノーズの先を接地して180…??え?あれ?ちがうB1?ええ?なに?なに?いまどうなってた?」という具合だ。アンドレはといえば「それじゃあ、次はこうしてみて?」とまた新たな技を3つ4つと繰り広げる。最初の?の上にさらなる?だ。すいませーん、オーリーもまともに飛べない私には無理なんですけど…?と言いたいが、今ここで、それこそそんな基本的なことを言い出したところで始まらない。とにかくできる限りの範囲で、自分では似ていると思えるようなことをやってみるしかなかった。

アンドレはほとんどできていないみんなに、それでも根気よく時間いっぱい使って教え続けてくれたが、アルバイトの時間が来てしまったために3時でお別れ。同じくアルバイトに向かうハジメくんとアンドレ(ハジメくんは日本料理屋、アンドレはアクティビティーで行ったプールの監視員)と山の上でお別れして、私たちは最終日のラスト・ランを楽しむためにもう一度山に上がったのだった。アンドレ、ごめん!そしてありがとう。

ラスト・ランを楽しんだあと、明るいうちに山を降りる。何度も言うが、これでもウィスラーではリフトの営業も終了する普通の時間だ。
今日の山のあとには最終日の寂しさを紛らわせてくれる企画がある。それはウィスラー・ビレッジの北端にあるロスト・レイク湖畔でのバーベキューだ。山で一日滑ったあとにバーベキュー?と思うかもしれないが、日が長いのでこれがまったく普通に楽しめる。ロスト・レイクのほとりには軽いピクニックを楽しめるように厚い木でできたテーブルが数セット設置されている。そして初夏になるとその脇にバーベキューコンロまで用意される。これは申し込みなどを必要としない、誰でも自由に使っていい公共のコンロなのだ。去年はこれを使って同じようにバーベキューを行った。だが、今年はそのコンロはまだ設置されていなかった。要するに、まだ使う時期には早いということなのだろう。それだけ今年のウィスラーの春は遅れているのだ。急遽フサキ家から借り出したコンロを使って、ハンバーグを焼く。それを各自勝手にレタスやトマト、オニオンスライスを乗せたバンズにはさんでハンバーガーを作って食べた。カナダではバーベキューというとこのスタイルが一般的らしい。今年もハンバーグを焼いてくれたのはタクミくん。そして去年はレタスをちぎったり、トマトやオニオンのスライスはdmkスタッフがやっていたが、今年はタクミくんを始めとするウィスラー・スタッフや仲間が行ってくれたようだ。ありがたい。

ルーブ、ライアンも来てくれた!

バーベキューにもゲストがやってきた。dmkではおなじみといえばおなじみ、ルーブ・ゴールドバーグだ。そう、知っている人なら知っているかの有名な色男だ。ルーブのグリーンがかった瞳と大きな二重まぶたは実に甘く、彼にニコリと笑顔を見せられると思わずドキッとしてしまう。この甘い瞳に今まで何人の女の子がよろめいたことか。

いつもdmkのみんなに会うのを楽しみにしてくれているルーブなのだが、今年は残念なことにケガに泣かされている。今回はそれで山にも呼べなかったのだ。ウィスラー・キャンプのリピーターにはルーブに会いたいという思いで参加してくれている人もいる。だからせめてバーベキューには、ルーブの都合さえ合うのなら、ぜひ来てほしいとフサキさんが誘ってくれたのだ。ルーブは去年もビデオエディターだという謎の黒人さんを連れてきたが、今年も友達を連れて現れた。今年の友人はスノーボーダーであり、DJの仕事をしているライアンだ。ライアンは学生の頃、日本の成城大学に留学していたので、日本語がペラペラだ。尊敬語や、謙譲語まで使い分ける。あまりにも上手なので思わず褒めると「勉強しましたから」と言われてしまった。はい、すみません。そう言われては国際語であるはずの英語さえも勉強しない私は頭を下げるしかない。ライアンはDJの仕事で渋谷のクラブにも来るという。話していても頭の回転が速いとても楽しい人だった。

日が落ちてきたら急に冷え始めた。去年はこの時間には体長2センチ近くある巨大な蚊の大群の来襲を受けて(といっても動きが緩慢なので刺されることは稀)困ったが、今年は蚊がいない代わりにめちゃめちゃ冷える。これではバーベキューコンロの設置が見送られているのも当然だろう。そろそろ撤収だ。寒さに震えながら手早くプレゼント大会を行った。プレゼントはDVDが数本とタクミくんから、なんとボードが1本!このボードは去年に引き続くタクミくんからのビッグなプレゼントとなる。一瞬寒さを忘れて俄然熱いジャンケン大会が繰り広げられたが、今年この幸運を手にしたのはミユ姉!おめでとうございます!かなりうらやましい!!ミユ姉って、なんかついている人なんだよなぁと思う。そしてタクミくん!2年も連続で素敵なプレゼントを本当にありがとう。

DVDにはルーブが出演しているものもあり、当選者は早速ルーブにサインを求めていた。そしてこのタイミングで再び登場したのがゆうじろうさん。DVDではなく自前の手ぬぐいを取り出し、それにルーブのサインがほしいという。「これにルーブのサインもらえるかなぁ?」と、なんとなく弱気に尋ねられたのでくわしく訊いてみると、その手ぬぐいは地元の町会特製のものだという。手ぬぐいの隅にゆうじろうさんの住んでいる町の名前が染め抜いてあるのだ。広げて見せてもらうとなかなか渋いデザインだ。しかも他にも手持ちがある。「え?凄いじゃん!それプレゼントすれば喜ばれるよ。そうすればサインも貰いやすいじゃん」と言ったら、早速ルーブの前に進み出た。ゆうじろうさんのお仕事は大工さんだが、そんな男気質なイメージにさらに磨きが掛かるとでも言おうか、実は地元の大きな祭で神輿も担ぐ本格的な下町っ子だ。ゆうじろうさんはルーブを囲む数人の目の前で手ぬぐいをクルクルと捻り、あっという間にきれいな鉢巻を作った。それを自分の額に巻いて、手ぬぐいの両端をキュッと後ろから左右に挟んで上に向けた。「ここを上に向けるのがポイント。ベリー・インポータント」とゆうじろうさん。「うわ、凄いねぇ?上に向けるのが大事なの?」「そう。怒ってるぞーって感じに」「へぇ~。そうなんだ~」慣れた手つきで素早く、固くきれいに捻り上げられた鉢巻に、ルーブとライアンだけでなくみんなが感心した。もちろんルーブが喜んでサインに応じてくれたことは言うまでもない。

 BBQ隊長タクミくんがガンガン焼きます。

 最後はフサキさんお得意の「1、2、3、dmkダー!」締め。

バーベキューも無事に終えてホテルへ戻ってきたが、最終日の夜、といったら、もちろん「じゃあ、おやすみ~」なんておとなしく部屋へ戻って寝ているわけがない。だって寝る気になれば、明日の飛行機でいくらでも寝られるのだ。だいたい今まで詳しくは書かなかったが、今回のメンバーは飲める人も飲めない人もほぼ毎日、仲良く飲みに出歩いていた。そんなメンバーが集まって、最終日の夜ともなればそのテンションは押して計るべしだ。店からラストオーダーで追い出されるまで、誰一人帰らずに最後の夜を楽しんでいた。

翌朝は、少し水っぽい空気に包まれた朝となった。降るともない軽い雨が時折空から落ちてくる。タクミくんとまだウィスラーに滞在する都所親子、それにきのうバーベキューからの帰り際に「早起きできたら、見送りに来るよ」と心許ない言葉を残していったフサキさんも、ちゃんと早起きできたらしく見送りに来てくれた。
来たときと同じミニ・バスに荷物を積み込み、フサキさんと握手をして別れを告げた。昨年からワーキングホリデーでウィスラーに滞在していたケイくんも、今日、日本へ帰る。コーキはこれからこちらでの学校生活が始まる。相変わらず優しい面持ちで、いつもおとなしいコーキだけれど、来年また少し大人になっているのだろうなと思うと、親でもないのに楽しみなような寂しいようなちょっと複雑な気分だ。

ミニ・バスは出発した。雨が落ちていた空も、いつの間にか太陽が顔を出し、すっきりとした青空が顔を覗かせてきた。ウィスラーからバンクーバーまでのいつもの道は、濡れたアスファルトが青い空の色に光っている。この道沿いにはいくつもの小さな池や沼がある。大概は鏡のような水面にあたりの景色を映している。なかには本物の鏡のように、空と雲と雪をつけた山と林をハッキリと映したびっくりするほどきれいな池もある。「ここには去年ビーバーがいたんですよ」とケイくんがそのうちのひとつの池を教えてくれた。
途中のスコーミッシュでお決まりの休憩を取るが、来たときと違うのはみんな落ち着いて買い物ができるようになっているということ。来るときはバーガーショップで注文するだけで、舞い上がってしまっていたのが、今はすっかり落ち着いて注文している姿が最大の変化だ。空港でもチェックインがすめば、みんなぱっぱと分かれて自分の目的のお店に向っていく。こういうことも成長のひとつなのだろう。

楽しかったね~。

さようならカナダ!また来年行くぞ。

バンクーバー空港を、少しの遅れを取って飛行機が飛び立った。機内のプログラムは相変わらず観たい映画がいろいろあって、結局眠れなかった。日本に近づき、アナウンスが着陸態勢に入ったことを告げる。ふと窓の下を見下ろすと、キッチリと四角く仕切られた平らな土地が続いている様子が目に入った。不思議な四角い仕切りはそれぞれある程度の広さを持って、見渡す限り土地のすべてを覆っている。そのすべてに水が張ってあるようで、太陽の光を照り返している。よく見ると仕切りの間に道路があって、ゴマ粒みたいな大きさで自動車が走っている。それが水田だと気がつくまでに少し時間が掛かった。ああ、日本なのだなと思った。ウィスラーの整った街並みもきれいだったけれど、こうしてみる日本も美しくて特徴的だ。そして本当に空港が近づいてきた頃のごちゃごちゃと秩序のない建物の群れも、アジアの特徴であり、紛れもない日本の特徴なのだ。
空港に降り立つと、とても上着を着られないほど暑かった。成田の気温は28℃。私たちの海外脱出は終了だ。もうすでに、バンクーバーの光と冷たい空気を恋しく思い出しているけれど。
  

このキャンプのインフォメーション

日程:
4/29 16:00頃成田空港集合(嬉しい時差により4/29 10:45バンクーバー着)
4/29,30,5/1,2,3 ホテル宿泊(4/30,5/1,2,3は朝から晩まで遊べます)
5/4 朝ウィスラー出発(せつない時差により5/5 14:30成田空港着)

キャンプ(ツアー)開催地: カナダ ウィスラー&ブラッコム

宿泊先: Whistler Village Inn & Suites

キャンプ費: ¥225,000
(成田~バンクーバー間のエアー代・バンクーバー~ウィスラー間の交通費、5泊朝食(軽食)付き宿代・コーチ&ガイド代、1Night夕食&パーティー代)

ツアー参加人数: 12名

コーチ&案内人: 飯田フサキ、大原タクミ、平野ハジメ、ダン・レイモンド、山岡聡子、アンドレ・ベノワ

同行スタッフ: アヤ、モリッペ、ケイ

協力スポンサー関係: nomis

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